★★★『夕闇の童詩』★★★
はじめに注意事項です。このレビュー中には表現の都合上、どうしてもゲーム内容のネタバレなどが含まれている
可能性があります。ゲームをプレイ中、及び未プレイの方は、ゲームを最低一度は攻略(エンディングまで到達) した
後で、このレビューを読むことをお薦めします(勿論、未プレイの方でも大丈夫なよう、ネタバレ的要素は極力排除
しているつもりですが……)。……以上の件、何卒ご理解ご了承下さいませ。
●− Review 序章 −●
好みは人それぞれだし……俺はこの絵が好きなんだけどなあ。
後手後手に回った仕事に追われ、精神的に潰されそうな日々を過ごしていた8月下旬。私は現実逃避がてら、いつものようにエロゲ
雑誌を片手に月末購入予定のソフト「夕闇の童詩」の紹介記事を読んでいました。
……本作に関しては新規メーカーさんのゲームだったと言うこともあり予備知識などは全くなく、私的第一購入動機に挙げていたのが
淡い雰囲気を醸し出していた「ゆうろ」氏のCGだったのですが、どうも世間的に「ゆうろ」氏の絵は受けが悪い部分があるらしく、友達に「イラ
スト目当てで購入するというひとはあまり居ないんじゃ?」とまで突っ込まれた曰く付きのソフトでした。
ただ、私は以前ゆうろ氏が原画を描いたゲームをプレイした際に「癖がありながらも個人的には非常に魅力的な絵だった」と評価した
こともありますし、実際ゆうろ氏の描くキャラは魅力的で、原画人としては個人的に好きな部類に属します。なにより、ゲームにおいて主に
雰囲気を重視する私にとっては、本作の絵や柔らかめの彩色は非常に惹かれるものがありました。
勿論、そのほかにも全体を通じて伝わってくる淡い雰囲気やキャラ設定などに引かれたのも間違いありません。
そんなわけで、私としては本作を自然かつ至極当たり前に購入したのですが……閑話休題。
あ〜、なんか予想通りでいい感じ。
何というか……素朴なゲームですね。派手な演出は全くなし。逆に過度な演出を極力抑えることにより、シンプルながら味のある雰囲気
を醸し出して居るんですよ。良くも悪くもまったりゲーですね。
まあ、言い方を変えると「素っ気ない」の一言で片づけることも可能ですが、本作に限っては登場キャラの一部や主人公が「座敷わらし」と
いう人外かつ童話的な存在ということで、この素朴さがかえってマッチしている感を受けました。
実際、座敷わらしというキャラは日本人にとって非常に馴染みのある存在です。ゲーム中の独自解釈っぽい行動は兎も角としても、
和風、ファンタジーというイメージを植え付けるには面白いキャラだと思いましたし、物語への引き込み方は非常に良かったと思います。
ただ、全体的なゲーム内容は兎も角、基礎設定を有効に使っていたかという面に関しては多少疑問が残りました。
特に一部登場キャラに関しては、元々スケールの大きな話ではないものの、あまりにも一本道な進行パターンが多く、登場させる意義が
あったのか疑問に思ってしまったのは残念です。どうせキャラを使うのであれば、もっと有意義にシナリオと絡ませて欲しかったのですが。
……さて、それでは個々の見解に行ってみましょう。
まず先陣を切るのは……ゲーム性云々です。
展開はノベルゲー。ジャンル的に特筆すべき点はありません。至って普通のNOVゲーです。
ゲーム進行は複数視点形式となっており、特定キャラでゲームを終了すると次回以降のプレイに新たなルート……他キャラの視点から
見た物語の進行ルートが出現する形式になっています。……それにしても最近はこういった傾向のゲームが多いですね。同じ展開を
別視点から複数回繰り返すのはキャラ心情が解りやすい反面、同じようなシナリオを複数回進めることにもなるので、よほどシナリオに
自信を持っていなければ一概に良い手法とは言えないのですが……。
まず、興味を引かれた点として「ゲーム進行における文章表示が独特」ということが挙げられます。
というのも、本作はキャラ同士における会話の際に、ディスプレイ上に文章を表示する始点の位置を変えているため、通常のノベルの
ように上下に文章が流れるのでは無く、左右に次々と文章が表示される形式となっています。この手法は、誰が喋っているセリフかが
一目で解ることに加え、ごちゃごちゃと文章が混ざることなく文章が読むことができました。
実際、なんとなくですが、キャラ同士が会話をしているよう雰囲気が上手く出ているように見受けられましたし、この演出に関しては私的に
上手いと感じましたね。また、文章量自体がそれほど多くない本作においては非常に有効だったと思われます。
また、童話的な優しさを醸し出していた雰囲気と世界観も秀逸でした。こういう穏やかな雰囲気は何気に私好みなのですが、その
私情を考慮しても、本作の展開は独特かつ非常に味わいがありました。こういう淡い雰囲気って本当に好きなんですよ(苦笑)。
ただ、残念なことにキャラクターの扱いに関しては折角上手い設定を持っていたにも関わらず、重ね重ね不満が残りました。
どういうことかと言うと、あまりにも絡みがあっさりしすぎて居るんですよ。これは素朴云々の問題ではなく、主要キャラ以外は殆どシナ
リオに絡んでこない、または扱いが粗雑で、折角用意したキャラを全然有意義に使っていません。ぶっちゃけた話、半分ぐらいがただの
サブキャラと化しているのは気分が削がれる以前に勿体ないなあ、と。
まあ、そう言うゲームは他にもありますが、本作であえてそれを取り上げたのは、それらのキャラが、簡単ながらもしっかりマニュアルに
載っていたんですよね。それが立ち絵1枚で終わったキャラもいましたし、もう少しゲーム内でしっかりと動き回ってくれると、物語にも面白
味が出たと思われるのですが。
さて、座敷わらしという素材をどう活かしていくか……ストーリーです。
ゲーム期間は7日間と若干短めですが、イベントが適度に配置されていることや、後述するシステム回りの不手際も相まって、逆に冗長
さを感じるほどでした。……ゆっくりと文章読ませることを前提にしていたのならこの限りではありませんが。
ストーリーの概容は、人間になりたい座敷わらしとその座敷わらしが見える少女との出会い&恋愛。また、それに加え元座敷わらしと
その恋人との物語。そして、その物語の中で座敷わらしに敵対する存在となる死神の物語が絡みつつ進行していきます。
「死神」、「敵対」とだけ聞くと、以外に殺伐とした話にも聞こえますが、メインの物語自体はほぼ淡々と進んでいきます。実際、物語自体
の起伏は薄く、主人公が無愛想と言うことを差し引いても、かなり素っ気無く進む印象を受けました。
勿論主要なところでは盛り上がる部分もありますが、ヤマは前半のイベントのみで、それ以降は純粋かつ起伏無く物語が進みます。
とはいえ、諄いようですが本作はもともと派手なゲームではありません。展開的にはこれで問題ないと思われます。恋愛課程……という
のも妙な話ですが、主人公とヒロインが出会ってからの日常から恋愛に至るまでの描写はなかなか丁寧に書かれていましたし、1週間と
いう制約の中では自然に進んでいたと思われます。
また、本作はシナリオを進めていく度に別始点(キャラ)で物語を開始することが出来ます。シナリオを別視点から見ることにより、それ
ぞれの伏線が解明されるというわけではありませんが、全てを見ると、ひとつの物語として充分評価できるレヴェルになりました。特に最後
の締め方は予想範疇ながらも非常に上手くまとまっていて、私的にはこれだけでも充分に本作をプレイした甲斐がありました。
ただ、勿論不満点もあります。最も気になったのは、先程述べたように一部サブキャラの扱いが手抜きすぎたということでしょう。まあ、
キャラによっては後々主役級になる展開もありますが、一部キャラに至ってはマニュアルに載せる必要が無いような登場の仕方、あるいは
去り方が見受けられました。本来、もう少しシナリオに絡ませるべきなキャラもいると思われたのですが……。
本作は小綺麗にまとまっているタイプのゲームなので、正直なところ、必要ないと思われるキャラは無理に登場させなくても良かったと
思われます。実際、登場キャラの半分ぐらいはいまいち必要性を感じなかったので……。
何気に本作を買う人の大半はイラスト目当てな気もしますが……CGです。
まあ、結論から言うと、間違いなく原画人の絵が好きか嫌いかでハッキリ評価が分かれます。
原画自体が非常に癖のある作風なので、好きな人は好きな反面、嫌いな人は根本的に受け付けない絵柄でしょう。私は好きですが。
で、私は好きなその原画に関しては……いいですね。独特な雰囲気と世界観を持っている方ですが、本作でもその魅力が遺憾なく
発揮されていたと思われます。ただ、残念だったのは当初気に入っていたキャラの出番があまり無かったことですが(苦笑)。
とはいえ、私が原画に求めていた「キャラクターの柔らかい表情」は相変わらず上手く描かれていましたし、この点だけでも私的には充分
満足がいくものでした。CG枚数もゲームの規模を考えると意外に多めでしたし。
また、彩色に関しては原画を損なわないよう非常に淡目に塗られていました。そのため一部の背景CGに関しては随分と手抜きっぽく
見えた部分もありましたが、原画のイメージ的には、逆にこの彩色が合っていたとも言えます。
ただ、CGに関してもサブ(雑魚?)キャラの扱いは酷かったですね。立ち絵が1パターンのみとか……勿体なかったです。
余談ですが、珍しく……というか、懐かしく感じた部分としてモザイクの入っていない(局部を描いていない)ゲームも久しぶりでした。
エロはそれほど多くのモノを期待してなかったので、私的には許容範囲でしたが、今時には珍しい手法を使っていたな、と。
さて、実は意外に重要なシステム関連です。
……残念ながら、本作の評価を中途半端に下げてしまったのが、このシステム関連だったりします。
確かにノベルゲーとして、最低限の機能こそ備わっていましたが、実際のところはセーブ数の少なさ、キーボード非対応、メッセージ
スピードが遅い、画面切り替えが重いなど、何をするにもワンテンポ遅れてしまう部分が多く、あれこれとストレスを溜めながらのゲーム
進行になってしまったのは大きなマイナスポイントでした。
本来システムというものはゲーム進行を補助し、プレイヤー側に快適さを持たせるための機能でもあります。それが本作に至っては
完全に逆……システム回りが足を引っ張っていました。これは流石にフォローのしようが無いです。
まあ、私のマシン環境自体が悪いことに加え、ゲーム側で意図的に切り替えを遅くしている部分もあるとは思われますが、それを差し
引いても場面切り替えに限っては理不尽な印象を受けましたね。
実際、殆どの画面切り替えに関して、システム側でフェードイン、アウトの形式を撮っているので、環境が悪いマシンでは次のCGが表示
されるまで、相当イラつかされることこの上ないんですよ。しかもそれがほぼ全てのシーンで……。
正直、ただの場面切り替えの度にこれをやられるのは辛かったですね。結局この切り替えがシナリオにも余計な「間」を生んでしまい、
何気に緊張感や臨場感が削がれることも多かったですし。……せめて表示を簡易化、もしくはキャンセルするシステムが欲しかったです。
……以上の点をはじめ、システム関連は殆ど良い部分が見あたりませんでしたね。次回以降で改善を望みたいところです。
ちなみに、先程述べた一部のシステム問題点に関しては修正パッチを当てると多少改善される部分もあるので、これからプレイする
人はメーカーサイトからパッチを落とした方が無難であることを付け加えておきます。
さて、音楽ですが……。
いや、良かったです。意外、というのも失礼ですが、実際、音楽に関しては意外なまでに堪能させて貰いました。
正直、音楽に関してはあまり期待していなかったのですが、いざゲームを始めて実際に音楽を聴いてみると、殆どの曲が非常に良い
曲でした。質素簡潔な本作において、音楽は非常に際立っている印象を受けました。
特に穏やかな場面で流れる音楽に関しては秀逸でしたね。本来、音楽を合わせるにはなかなか難しい場面にも関わらず、ゲーム
設定に沿った……どことなく昔風の日本情緒が入り交じった曲を聴かせて貰いました。……久しぶりに良い曲を聴いたかな、と。
ただ、ひとつ残念だったのが、本作にはC.V.やVocalと言った、いわゆる音声関係が搭載されていなかったことですね。
善し悪しはありますが、時代の流れもありますし、多少無理をしてでも音声は入れて欲しかったところです。特に、物語の起伏に乏しい
本作では、音声を入れることにより違う面での評価が出せたと思われるのですが。
まあ、何はともあれ作曲自体に関しては高い評価を付けさせてもらいます、ええ。
まあ、いろいろと不満もありますが……。
良い意味でも悪い意味でも、久しぶりに素朴なゲームをプレイしたかな、と。
元々、ゲーム自体がそれほどスケールの大きな話でないことは安易に予想が出来たことに加え、実際の内容も予想に沿った展開を
見せて貰ったこともあり、そういった意味では期待通りでしたし、特に不満も無かったです。
ただ、それはあくまで私の主観であり、客観的に判断すると物足りなさが残る部分も多いですね。特にキャラクター同士の繋がりや
シナリオへの絡ませ方が希薄なところは致命的で、折角の魅力的なキャラを上手く扱えていない印象を受けてしまいました。
また、昔は当たり前のことだったとはいえ、今の時世を考えるとVocalも音声も入っていないゲームというのは、商業ベースで考えると
矢張り素っ気なく感じてしまうのは確かです。まあ、不思議とこのゲームにはそれも合っている感もありましたが。
さて、総評です。
ゆうろ氏の絵が好きな人や、まったりした素朴な物語を求める人は「買い」だと思われます。しかし、絵に抵抗がある人や、
奥の深いストーリーを求める人。快適なゲームを楽しみたい人は購入を控えた方が無難ですね。
まあ、私自身は絵目当てで購入した立場なので、本作は充分に楽しませて貰いました。
ただ、予想以上のゲームを求めるのがプレイヤーであり物書き屋であるため、特筆すべき点がない無難なゲームというのはどうしても
高い評価を出せないんですよね。……この辺はいろいろ難しいところですが。
それでは、今回はこの辺で筆を置かせて貰います。
縁がありましたら、次のレビューでお会いしましょう(^^)/〜
OS=日本語版Windows95/98/Me/2000が動作する環境
CPU=MMXPentium233MHz(推奨PentiumII-400MHz)以上
メモリ=空き32MB(推奨64MB)以上
HDD=空き容量500MB以上
解像度=800×600:フルカラー表示が可能であること
CD−ROM=2倍速(推奨4倍速)以上
音源=CD-DA、PCM
DirectX=Ver7.0a以降
「原画:ゆうろ」
「シナリオ:田中蛙」
「音楽:Setzer」
「音声:なし アニメ:なし 」
「価格:8800円」
「初回特典:あり」
「年齢制限:18禁」
「メディア:CD」