★★★『 ゆのはな 』★★★
はじめに注意事項です。このレビュー内には表現の都合上、ゲーム内容に関してのネタバレなどが含まれている
可能性があります。ゲームをプレイ中、及び未プレイの方は、ゲームを最低一度は攻略(エンディングまで到達) した
後で、このレビューを読むことをお薦めします(勿論、未プレイの方でも大丈夫なよう、ネタバレ的要素は極力排除
しているつもりですが、排除が万全とは言えません)。以上の件、閲覧前に何卒ご理解ご了承下さい。
●− Review 序章 −●
体験版の内容を見た限りは凄く期待できそうな作品なんだけど……。
求職生活にも飽きてきた3月の中旬。職安に通ってもほとんど進展がないことに業を煮やした私は、息抜きがてらの
短期バイトに勤しみつつ、月末に発売されるであろうプルトップさんの新作「ゆのはな」についてあれこれと考えていました。
さて、その「ゆのはな」ですが、実のところメーカー買いをしても何ら問題ない作品でした。元々プルトップさんは常に良質
安定な作品を提供することで定評のあるブランドでしたし、実際私も、以前その恩恵を多々受けさせて貰いました。
更に本作はそれに加え、私とは縁あって馴染み深いノーブランドサウンズさんが音楽に関わっていることもあり、普通
以上の期待を抱きつつ発売日を心待ちにしていたのです。勿論、肝心のゲーム内容も、体験版を遊んでみた限りは実に
私好みの明るく楽しい展開。これは期待しないほうが酷ですし、事実久しぶりに発売を待ち望んでいた作品でもありました。
ま、あまり期待しすぎて空回りになったら大変だけど、と期待8割、不安2割で本作を購入したのですが……閑話休題。
ん、良い意味で凄く期待通りの作品でした。
何かが極端に秀でていた訳でもなく、あっと驚くような意外性があった訳でもありません。ただ、確実に楽く面白かったと
断言して良い作品でした。安定した面白さ、と言えば若干聞こえが悪いかも知れませんが、全ての要素に平均から+2程度の
修正が掛かっているような感じでしたね(苦笑)。……手堅い、と言うよりADVとしてのお手本みたいな完成度だったな、と。
勿論、それ故に個性に乏しいと言う見方も出来ますが、お手本と称される作品を作ることの難しさを考慮すると、逆にこれは
誉めるべき点でしょう。基礎がしっかりしていれば結果的に内容も追随するものですし、何よりも安定した面白さが保証されて
いる作品は得てして良作という名の烙印を押せるので、遊び手&書き手としては有り難い話です。
と言う訳で、結果的には矢張り良作。また予想よりも日常会話における笑いの要素が強い作品になっていたのも好印象。
起伏に乏しい&一部端折り気味な展開は賛否両論あるかと思いますが、個人的には期待通りの内容を見せて貰いました。
……あ、強いて言えば、冬という舞台設定を生かすには若干勿体ない時期(3/25)の発売だったかな、と。
我が街札幌は発売当日も思い切り吹雪いてましたが、本来の発売日を考慮すると若干時期が遅かったかも知れません。
それでは、個々の見解に行ってみましょう。
バイトって辛いよね……ゲーム性です。
ゲームジャンルはADVで1プレイ時間は7〜9時間と若干長目。ちなみに選択肢は殆ど意味のないものになっていて、
目的のルートへはひたすら通うだけで良いと言う一昔前のストーキングゲーム形式になっていました。あ、一応幾つかの
選択肢は出てきましたが、簡単なものばかりだったので概ねデジコミ感覚と考えて良いですね。難易度は激低かと。
具体的なゲーム内容は、諸事情により発生した借金を返済する為、主人公が様々なバイトに精を出すと言うものでしたが、
ぶっちゃけバイトそのものは単なるおまけ的な存在。実際はバイト中のイベントを経てヒロインとのフラグを立てていくと言う
作業がメインになっていました。ちなみに舞台設定は東北地方の田舎町でしたが、田舎独特の素朴さやまったりした空気は
登場人物達の人情味と相まってなかなか良く出ていたと思われます。
で、本作で特筆すべきは矢張り魅力的なヒロイン達。容姿は元より、嫌味のないキャラに仕上がっていた様は実に良好。
予想に反した展開or活躍になったキャラが多かったのは複雑な心境でしたが、全員甲乙付けがたい魅力を持っていました。
また主人公とゆのはのツッコミ漫才を始め、主人公を筆頭に無駄(←誉め言葉)にノリの良いキャラが多かった点も良好。
久しぶりに爽やか&ヘタレてない主人公を見た所為もありますが、なかなかの好青年&最後まで好感を持てるキャラでした。
あと、要所要所の会話で地味に笑いを取っていた点は個人的に好印象でしたね。矢張りエロゲは楽しく遊びたいな、と。
強いて言えばゆのは神が若干黒かったかな、と。……こんな神様嫌だ、と思うほど良くも悪くも序盤のインパクトが大き
かった所為もありますが、いきなり借金を返済させるためにサラ金へ押し込もうとする神様は珍しかったですね(苦笑)。
後々振り返れば不思議と理に適った行動を取っていたのですが、ぶっちゃけ我が儘な性格が遺憾なく発揮されていたので、
結果的に至るまでの課程が結構シュールになっていた点は事実。嫌う人は素で嫌ってしまうキャラかも知れません。
また、冒頭でも少し語りましたが、矢張り本来は冬に遊びたかった作品ですね。特に「雪」という題材はことさら冬のイメージ
が強い作品だったので、それに沿った季節に発売すればなお一層の臨場感が出たと思われるだけに、少々残念でした。
ちなみにエロは……基本的に薄め。一部のシナリオでは恋愛ADVとして標準以上のエロを醸し出していました(シチュ
エーションだけなら久しぶりに凄いものを見せて貰いました)が、基本的にはおまけみたいなもの、と考えて良いかと。
正直、エロに関してはこれだけ魅力的なキャラを揃えているならば、恋愛ゲーならではのダダ甘展開を交えてもう少し濃く
描写して欲しかった……当たり前すぎる話ですが「エロ」ゲとしての意義がもう少し欲しかったです、ね。
あ、そうそう。例の如く男キャラもなかなか良い味を出しているので、その手のノリが好きな人にはお勧めです(苦笑)。
開始早々の衝突事故はある種の伝統か……ストーリーです。
大学が冬休みに入り、あても無くバイク旅行に出かけた主人公は、片田舎にあるゆのはな町を訪れた矢先、道路に
飛び出してきた猫を避けようとして道端にひっそり建っていた祠にバイクごと突っ込み、意識を失ってしまう。再び目を覚ま
した主人公が見たものは、仰向けに倒れた自分を宙に浮かんだまま眺める「ゆのは」と言う土地神の少女だった。
土地神としての力を使って怪我の治療をしたと告げられ感謝する主人公だったが、衝突の際に壊れた祠の修理費を
払えと脅される始末。結局、主人公は修理費捻出の為、半ば強制的にゆのはな商店街で働くことになったのだが……。
と言う設定で物語は幕を開けますが、この時点で微妙にファンタジーの世界。実際は伝記云々になるのですが、大まかな
概要は神にこき使われている熱血主人公がバイト先の娘と交流を深めてのドタバタ劇、と言う展開になっていました。
で、シナリオ進行そのものはバイト先を選んで進めていけば特に問題なし。純粋に物語を追えた反面、シナリオによって
は間延びしていた部分もあったかな、と。……淡々とした日常とは若干違いますが、良い意味で起伏に乏しかったので、
目の覚めるようなイベントが殆ど無かったのも一部の冗長さを助長させていたかな、と。特にヒロイン達の横の繋がりに
関しては思ったよりも少なかった……設定上は繋がりが強かったものの、ヒロインが決まると同時に他ヒロインの登場頻度
が落ちていったのは寂しかったですね。田舎町と言う舞台を考慮すると、本来もっとキャラを絡めて良いと思いましたが……。
で、肝心のシナリオ本線ですが、明るい、爽やか、コミカルという単語がこれ以上ないぐらい当てはまる内容でした。
全体的にテンションが高く楽しく遊べたことに加え、テキストのところどころに小ネタ(一寸したパロディなど)が入っていて
クスリと笑えた点はポイント高いですね。また、テンポの良い掛け合いは単純に面白かったです。ちなみに伏線も気にならな
い程度にちりばめられていたので、回収が好きな人は思わずニヤリとすること請け合い。外観予想に反して意外なキャラが
意外な行動を取っていた(ついでに攻略出来なかった)のは善し悪しでしたが、意外性の少ない本作において唯一驚いたの
が穂波シナリオだったことを考えると、結果的には嬉しい誤算だったのかも知れません(苦笑)。
そして勿論、締めるところはしっかり締めた点も好印象。いわゆる「良い話」というヤツですが、地味に感動系でも
あったので、どのシナリオもラスト近辺は思わずグッと来ること請け合いです。道中の盛り上げ方は若干弱かった気もしま
したが、裏を返せばそのぶん穏やかでまったりした物語を堪能することが出来たかな、と。
ただ、本来メインルートであるはずの「ゆのは」シナリオはちょっと勿体なかったですね。
読了感は良かった反面、メインキャラの割には自他のシナリオを含め展開と結末があっさりしすぎ。本来もっと掘り下げて
描写すべき点(影とのやりとりやご老体が若かりし頃のイベント)を端折らずにしっかり描写すれば更に良い演出が出来たと
思われるだけに、本作の締めとも言えるゆのはルートが結果的に単なる付け足しに感じられた点は本当に残念でした。
個人的にはご都合主義な結末も大歓迎なのですが、最後は明らかに端折り気味だったのは勿体なかったなあ……。
あと、少々余談になりますが、本作は主人公がもの凄くエロゲ的な完璧人間でした。ついでにテンション高すぎ(苦笑)。
あのノリは若さ故かも知れませんが、それすら魅力的になる様は珍しい……ある種の理想的キャラだったと思われます。
さて、ゲームの華、CGです。
原画担当は藤原々々さん。元々可愛い系(幼い系)の絵柄を描くことで定評がある方ですが、本作でもその実力と魅力
が遺憾なく発揮されていたと思われます。この原画でやれペドだの幼○性愛と罵られる主人公には同情しますが(苦笑)。
ただ、私個人は久しぶりに氏が原画を担当したゲームを遊びましたが、以前より若干ではありますが外観と頭身が上がっ
たかな、と。……何にせよ可愛い系のキャラを描かせると業界でもトップクラスの実力を持つ方ですし、構図等も良好。全体を
通して安心して見ることが出来ました。また彩色に関しても標準以上。淡めの塗り方が良かったですね。
あと、個人的な趣味の話ですが、スレンダー系キャラが多かったのは嬉しかったですね。いや、好きなんですよ(苦笑)。
強いて言えば主人公の顔が予想通りというか微妙に違ったというか……。
ただ、最近のゲームとしては珍しく主人公の顔がしっかりと前面に出ていた点は個人的に好印象でした。
また、本作で特筆したいのが表情の多彩な変化。多少オーバーリアクションだった点も含め、ゲームのドタバタ感に沿った
立ちCGや表情が上手く使われていたと思われます。特に表情や仕草は予想以上に多様なパターンが有ったな、と。
ちなみに年上系のキャラも実に魅力的でしたが、絵師さんの意向かはたまたライターさんの趣味か、待遇は微妙です。
個人的には頭身の高い絵も結構なお気に入りなので、もう少しCGやエロ方面を優遇して欲しかったですね。
CPU使用率に優しいエロゲを……システムです。
ゲームジャンルがADVということで特に複雑なシステムは実装されていませんでしたが、基本的な機能は一通り完備
されていましたし、ゲーム進行の妨げになるような箇所も特に無かったので、システム自体は及第点以上だと思われます。
また特筆、と言うほどではありませんが、キーボード&パッドにしっかり対応していた点は細かな配慮でした。
強いて言えば個別ボイス採用&オンオフ設定が出来ても良かったかなと思いましたが、欠点という程でもありませんし。
後は……バイト代徴収機能が無駄に凝っていて良かったぐらいか、な(苦笑)。
ご丁寧に羽が生える金額がその通りだったのは当たり前のこととは言え、その細かさと配慮に感心しましたね、はい。
簡潔ですが、システムに関しては以上です。
こちらも地味に期待していた……音楽です。
音楽担当は個人的にお馴染みとなったサウンドチーム、ノーブランドサウンズさん。毎々幅の広い作風とゲーム内容に
沿った音楽を提供されていることで定評のあるブランドですが、本作でも相応の力を発揮していたと思われます。
今回はゲーム自体が穏やかな内容&舞台が田舎町ということで静かな音楽がメインとなっていた為、勢いのある曲や
ノリの良さはと言う面では若干弱かったものの、そのぶんゲームの雰囲気に上手く合っていた……手堅い作りになっていた
と思われます。正直、若干物足りない部分があったもの事実ですが、それは良くも悪くも歴代担当作品の個性故でしょう。
ま、そうは言いつつも曲単体のクオリティは毎々ながら流石だったので個人的には今回も充分に堪能。特にラスト間際の
曲はこれ以上ないぐらい場面とマッチしていて聴き応えがありましたね。
ただ、C.V.に関しては概ね良好だった反面、ゆのはの声が若干浮いていた……違和感の域に入っていたかも知れません。
キャラ的なものも若干含まれているのかも知れませんが、それを差し引いても鼻に掛かったような、如何にも演技をしている
と言う感が強かったのは少々残念でした。
……あ、あとギターの音は実に良い効果音になっていたと思われます、はい(苦笑)。
いや、大変楽しませて頂きました。
最初から最後まで大きなストレスや不満を感じることなく楽しく遊べた点もさることながら、非常に丁寧な作品に仕上がっ
ていた面を含め、高く評価して良い作品だったと思われます。個人的な理念である「ゲーム=エンタティメント」の枠にもしっ
かり沿っていましたし、何よりもゲーム自体が明るく楽しく後味の良い物語だった点はそれだけで好印象&高評価でした。
ただ、全体的なクオリティは並のADVより遙かに高いものの、特筆すべき点や致命的な点に乏しいこともあり、結果的に
当たり障り無い評価になってしまったな、と。……それ故にお薦めしやすい部分もありますが、これで何か一つでも秀でたも
のが印象として残れば、もっと高く評価できた作品だっただけに、勿体ない、と言う感も強かったですね。
さて、結論です。
ゲームのそのものの設定やキャラに惹かれた人は購入する価値がある作品だと思われます。作品としての出来は標準
を軽く越えていたので、動機を持って購入したぶんには充分な値がありますね。反対にお薦めしない理由は特にありませ
んが、年上キャラのえちぃ待遇が微妙に悪かったり、波瀾万丈な展開とは縁遠い面もあるので、ドラマチックな物語を求める
人には向いていないかも知れません。いや、充分ドラマチックな展開もありましたけど……。
意外性を求めると肩すかしな部分もありましたが、個人的には楽しく遊べた作品でした。また、主人公のハイテンションな
性格が引き起こす物語は何気にコメディゲーとしても楽しめましたし、何より読了感が良かったですね。最近のゲームに多い
無理に盛り上げようとする強引な設定や展開が無く、あくまで自然な内容と結末を見せてくれた点は高く評価したいですね。
さて、今回はこの辺で筆を置かせて貰います。
縁があれば次のレビューでお会いしましょう(^^)/〜
OS=日本語版Windows98/Me/2000/XPが動作する環境
CPU=PentiumIII-500MHz(推奨PentiumIII-800MHz)以上
メモリ=128MB(推奨256MB)以上
HDD=空き容量850MB(推奨1.5GB)以上
解像度=800×600:ハイカラー表示が可能であること
DVD-ROM=2倍速(推奨4倍速)以上
音源=PCM
DirectX=Ver8.1以降
「原画:藤原々々(ふじわらわらわら)」
「シナリオ:丸屋秀人、J・さいろー」
「音楽:ノーブランドサウンズ、ツーファイブ」
「音声:あり(主要キャラのみFull) アニメ:なし」
「発売日:2005年03月25日」
「価格:初回版10,290円、通常版7,875円(税込)」
「初回特典:あり(大吉パック)」
「年齢制限:18禁」
「メディア:DVD」
「Ver:1.00(初期ロット)」
注:2003/01より点数形式を変更しました(50→100点満点)