★★★『誰彼』★★★
はじめに注意事項です。このレビュー中には、表現の都合上、どうしてもゲーム内容のネタバレなどが含まれている
可能性があります。ゲームをプレイ中、及び未プレイの方は、ゲームを最低一度は攻略(エンディングまで到達) した
後で、このレビューを読むことをお薦めします(勿論、未プレイの方でも大丈夫なよう、ネタバレ的要素は極力排除
しているつもりですが……)。……以上の件、何卒ご理解ご了承下さい。
●− Review 序章 −●
……ん〜、「痕」系の路線復活なら結構魅力的とも言えるんだけどなあ。
「誰彼」の制作発表を聞いたある日のこと。私はふとそんなことを考えつつ、相も変わらずエロゲーをプレイしていました。
……勿論、Leafさんに関しては最近の傾向変化など、言いたいことはいろいろとありました。内外の不穏な噂に加え、特に
Leafさんの顔とも言える高橋さんや水無月さんの新作がなかなか発表されなかったことは、個人的に大きな疑問であると共に
不信感となり、私個人としても、様々な意味でLeafさんに対して心境の変化をもたらしていたからです。
とはいえ、久しぶりの伊丹開発室の新作。私にとっては内容に期待しない方が酷というものです。
さまざまな期待と疑念を背負いつつ、さも当たり前のように本作を購入した訳なのですが……閑話休題。
地味に中途半端ってのは酷だなあ……。
ん〜、面白いつまらないと言うよりは、なんとなく拍子抜けした感じですね。
まず、いつものように素材や設定、そしてキャラは凄く魅力的で、このあたりは流石という感じでした。
もちろんシナリオで魅せることも必要ですが、まず最初にユーザーの目に入ってくるのは表面的な部分なだけに、相変わらず
上手い魅せ方をするなあ、と。特に引き込み方や、序盤、主人公が時代の違いに驚くシーンの演出は上手かったですね
ただ、結局それらを最後まで上手く生かし切ってない為に、全体を通して見るとシナリオ部分が足を引っ張っているように感じて
しまいました。標準以上の内容は保証されているものの、これだけの素材を使っている割には、その魅力が引き出せていない
のは、あまりにも勿体ないです。
更に、今回の売りであったと思われる新要素の演出に関しても、お世辞にも臨場感や緊張感を出しているとは言えず、盛り
上がるシーンを逆に盛り下げていたりと、あまりにもお粗末な部分が多く見受けられたのも、らしからぬ要因ですね。
……さて、それでは個々の考察に行ってみましょう。
さて、ちょっと話が逸れる可能性大のゲーム性です。
ゲーム自体はどちらかというとダーク系です。多少凄惨なシーンも入っているので、一般的な恋愛ゲームとは違い、
プレイする人を選ぶ傾向がありますね。また、ジャンルは言葉を借りると「ACTIVE DRAMATIZE NOVEL」だそうです。
具体的に記述すると、基本的なノベル形式に2Dアクション的な演出が入る感じでしょうか。
で、肝心のゲームに関しては、設定や伏線の張りかたは上手かったです。特にキャラクターは魅力的でした。
個人的に好きなキャラが食えないと言ういつもの結末こそあったものの(苦笑)、どのキャラも個性豊かで良かったです。
ただ、全編を通して魅力を感じた場面が少なかったことや、進行自体に抑揚のない展開が多かった為、ほとんど無表情で
ゲームをプレイすることになってしまったのはつまらなかったですね。あっ、と思うような展開を持ち込むことを無理に避けている
感じを受けました。
しかも……とにかくあの2D演出は辛かったです。それ自体は新しい試みとして評価を出したいのですが、緊張感を出すシーン
で全然緊張感が出せていなかったりと、お世辞にも良い出来とは言えず、本作の私的評価を下げてしまった元凶でもあります。
結局、2Dを使って何を見せたいのかが分からなかったところが痛いですね。
……話は若干逸れますが、今でこそディファクトスタンダードとして認識されているビジュアルノベルというジャンル。しかし、設立
当初に指摘されていた批評に「CGに文字がかかる」というものがありました。現在、この批評を聞くことは少なくなりましたが、
当時は結構あれこれ五月蝿く言われたものです。まあ、私も例外ではなく、いろいろと言いましたが(苦笑)。
しかし、結局このシステムは開発者側の「良い文章(ストーリー)を魅せる」という信念があり、それを有言実行した為、
ユーザーにその信念が伝わり、この形態が認知されたわけです。
で、今回、どうも意欲が感じられなかったんですよね。わざわざ2Dを使うことの意味や信念を汲み取ることが出来ませんでした。
2Dを使ったことによって、新鮮味こそ感じたものの、今までにない臨場感や演出が出ているとは思えなかったですし……。
例え荒削りでも、何かしら光るものがあれば印象も違ったと思うのですが……残念ですね。
まあ、2D演出に関しては次回以降の進展に期待しましょう。……使われれば……ですが。
さて、一時代を築いたかつての路線復活なるか……ストーリーです。
まず、率直な感想としては十分遊べたと思います。というか、贅沢を言わなければ十分です。
先程も語ったように、設定、主人公の立場、登場キャラやヒロイン。それぞれが個性的で魅力的でした。特に前半中盤の盛り
上がりは良く、物語への引き込みかたや謎が解明されていくタイミングのテンポが秀逸で、上手く溶け込んでいくことが出来ました。
ただ、悲しいことに、そこで失速してしまい、後半がいまいち盛り上がらなかったですね。
前半部分でコマを使い果たしてしまった為か、後半部分は終わってみるといまいち消化不良な印象を持ちました。
個々のシナリオが独立している所為もあるのですが、特に過去の立場や経緯などの描写が甘く、当人同士であれこれ語られ
ても、いまいちピンとこない箇所が多かったです。きよみルートにあったような回想シーンをもっと多く取り入れてくれれば良かった
のですが。……折角の良い設定も、消化不良ではその魅力を半分も活かしていないのでは……というのが本音です。
とはいえ、きよみトゥルーなどはそれなりに堪能させていただきましたし、個々のシナリオも納得がいかない部分はあれど、
結末自体はすっきりとしていたので、私自身は結構楽しませてもらったのですが……。
さてさて、塗りに関してどういう評価を出すか……CGです。
まず、原画自体は非常に良い感じでした。元々原画人の方は基礎画力の高い人なので、このあたりは全く問題無しですね。
余談になりますが、広告やパッケージセンスなどは光るものがありました。
……実のところ、カワタさんの絵は丸みが強調されすぎているため、個人的にそれほど好きな方ではないのですが、今回の絵は
不思議なぐらい素直に受け入れることが出来ましたね。
で、注目の塗りに関しては独特な彩色と言っていいのかは分かりませんが、今までにないタイプの彩色でしたね。……例を挙げる
ならば油絵風の塗り方という感じですか。
最初のうちは抵抗があったものの、慣れてくるとかえって肌の色などは極力自然な感じが醸し出されていました。また、最近の
ゲームとしては珍しく、髪の色がどのキャラも落ち着いていたのは好印象でした。
ただ、矢張りここでも2D部分のアニメーション演出等に関しては、あまり良い評価を出せないですね。アニメーションする以上、
多少のべた塗りは仕方がないとはいえ、あまりにも一枚絵とかけ離れた完成度……特に、緊張感がまったく感じられなく見えて
しまうぐらいにディフォルメされた表情はかなり辛いものがありました。あと、通常行動時に格ゲーを思い起こさせるような動きで
歩く姿はかえって不自然に映ってしまいましたね……。実際、特定の場面以外では極端な動作はいらなかったと思われます。
……2D演出に対して、どこかひとつでも価値を見いだすことが出来れば評価がかわっていただけに、残念ですね。
さて、システム関連です。
基本的に使いやすくて安定感があり、個人的にはプレイ中に不満を感じた箇所はありませんでした。また、今回は様々な
システムを使用している割には目立ったバグもなく、今までバグが多かった傾向が改善されていたのも好印象でした。
ただ、2D部分に関しては環境の所為か、反応動作や喋る際にウェイトがかかり、多少ギクシャクしていたのは勿体なかった
ですね。まあ、これに関しては明らかに私の環境の重さと言えるのですが。あと、切り替わりの際にHDDが随分とガリガリ音を
立てていたのも辛かったです。まさかゲームをプレイ中(フルスクリーン)に砂時計を見るとは思いませんでした(苦笑)。
とはいえ、システム自体に関しては十分に納得がいくものだったと言えるでしょう。
さて、Leafサウンドは健在か……Leafさんの売りでもある音楽です。
……いつもの感じ。いつものサウンド。多分こう言っただけでもわかる人はわかるでしょう。まあ、ここらへんは流石です。
ゲームの性質上、明るい曲が少なかったため軽快さは薄かったものの、そのぶん深みのある曲が多く、落ち着いた世界観と
マッチしていたのは良かったですね。特にシリアス調の曲に関してはウーファーをかけて聞くとなかなかに迫力があり、臨場感も
出ていました。……このあたりの基礎レヴェルの高さは、くどいようですが流石と言えるでしょう。
聴く前から期待しつつ、実際安心して聴ける音楽というのは、聴き手として嬉しいものです。
ただ、全てが終わってみるといまいち印象に残る曲が少ないという、Leafサウンドにしては珍しい印象を受けました。
高い領域で安定していると言えば聞こえが良いかも知れませんが、最近、多方面で良い曲を聴く機会が増えたためか、
以前ほど抜きん出た印象は無くなったかなあ、と。
あと、Vocal曲については、この業界では珍しく男性ボーカルでしたが、それ自体は良い感じだったと思われます。
ゲームの雰囲気にも合っていましたし、聴く分にも申し分ないと思われますね。
惜しいんだけど……というのが正直な評価です。
名作となる要素は十分に兼ね揃えていたにもかかわらず、それをみすみす捨てている気がしてなりませんでした。
月並みな表現を使うと、折角の素材を活かしてない……某書の言葉を借りると「物資の大量投入も戦術を間違えると全部
無駄になる」と言うヤツですね<何か違うかも
まあ、素材が良ければ、それなりに良いものは出来ます。ただ、それを更に上手く引き立てることが出来れば、この作品は
間違いなくもっと良い作品になったはずですね。少なくとも、私はそう思いました。
さて、結論です。
「誰彼」は十分に合格点を出せる作品だと思います。細かな面は別としても、普通に遊ぶには十分な内容のゲームでしたし、
きよみシナリオなどは、なかなかに堪能させて貰いました。
ただ、矢張キャラの魅力に反比例したシナリオの完成度を見ると、残念ながら人様にはお勧めできないかなあ、と。
勿論、基礎的な完成度だけでも十分に購入する値があることは間違いないと思われますが……。
さて、それでは今回はこの辺で筆を置かせて貰います。
縁があれば、次のレビューでお会いしましょう(^^)/〜
OS=日本語版Windows95/98/日本語版が動作する環境
CPU=Pentium200MHz(推奨PentiumII-300MHz)以上
メモリ=空き32MB(推奨64MB)以上
HDD=空き容量600MB以上
解像度=640×480:ハイカラー表示(推奨フルカラー)が可能であること
CD−ROM=実装必須
音源=CD-DA、PCM
DirectX=Ver7.0a以降
「原画:カワタヒサシ」
「シナリオ:竹林明秀」
「音楽:石川真也、中上和英、米村高広、松岡純也」
「音声:無し アニメ:一部有り 」
「価格:8800円」
「初回特典:無し」
「年齢制限:18禁」