★★★『水月ーすいげつー』★★★
はじめに注意事項です。このレビュー中には表現の都合上、どうしてもゲーム内容のネタバレなどが含まれている
可能性があります。ゲームをプレイ中、及び未プレイの方は、ゲームを最低一度は攻略(エンディングまで到達) した
後で、このレビューを読むことをお薦めします(勿論、未プレイの方でも大丈夫なよう、ネタバレ的要素は極力排除
しているつもりですが、排除が万全とは言えません)。以上の件、何卒ご理解ご了承下さい。
●− Review 序章 −●
原画の完成度はいつも通り。後は内容さえ伴ってくれれば申し分ないんだけど……。
GW前の業務ラッシュに追われていた4月下旬。私は何気に失礼なことを考えつつも、週末発売の「水月」を心待ちにしていました。
さて、この「水月」。私的には数少ない原画目当ての購入であり、なおかつ今まで発売されたF&Cさんの作品とは明らかに異なった
雰囲気……ぶっちゃけて言ってしまうと風情のあるCGや広告等は、久しぶりに私を惹き付けるものがありました。
とは言え、そこは天下のF&Cさん。CGのレヴェルに伴った内容を期待した前作と前々作は私的に今一だったこともあり、正直本作に
対しても素直に期待できない部分があったのは事実。
……先程も述べましたが、確かにこの業界において絵は重要です。しかしそれに加え、シナリオ、音楽が伴ってこそその真価が発揮
されることは言うまでもありません。そして、その枠に当てはめると旧作の私的評価は決して高くなかったのです。
しかし、それらを危惧しつつも、不思議と本作は楽しめるであろうという予感があったのも事実。その根拠は今一不明でしたが、私の
カンはこういうくだらないことに感しては非常に冴えていることで定評があります(苦笑)。
まあ、全ては遊んでみれば解る……と言うわけで、素直にゲームを開始したのですが……閑話休題。
いや、これはなかなか凄いんじゃないかなあ、と。
実は、これ本当にF&Cさんのゲームなのか……と言う、かなり失礼な感想が第一印象でした。
それほどまでに、本作は予想以上に楽しめ、なおかつ魅力的な内容だったのです。まあ、本来ソフトの比較は御法度ですが。
勿論面白いゲームに巡り会えたと言うのは嬉しいことですが、本来この類の民話系ノベルは如何にして独自の物語と世界観を構築
出来るかが勝負でもあり、ライターさんの実力が相応に問われるもの。おそらく、良くて平均……まあ普通の内容であれば単純的な絵の
魅力を加えて及第点という評価かな……と考えていた私にとって、本作が良い意味で大誤算であったことは言うまでもありません。
絵のクオリティが高ければ高いほど、それ以外のゲーム内容も相応な物が求められるのはこの業界の定説。本来は綺麗な絵だけで
も充分勝負になるのですが、そのあたりは私を含むユーザーの我が侭と理想。本作をその枠に当てはめると、絵の実力と雰囲気にゲー
ム内容が見劣りせず、逆に魅力的な原画と幻想的なCGを最大限に生かした作りになっていたと思われます。いや、驚きました。
何より、ゲームを慣性で遊んだ……と言うのではなく、遊びたい、先を見たいと言う明確な意志を持ってゲームを遊ぶことが出来たのは
私にとっては最大の評価ですね。
ただ、勿論手放しで誉めると言うわけには行きません。意図的なのか力不足なのかは今一わかりませんでしたが、舞台設定と結末に
ついては相応に構築されていたものの、いまいち説得力に乏しい展開が待ち受けていたのも事実。全体的に見ると大きな破綻もなく、
各所でそれを補って余りある魅力があったとは言え、釈然としないままゲームが終わるというのはあまり良い気分ではありません。まあ、
決して内容が未完成と言う訳では無かったのですが……。
それでは、個々の見解に行ってみましょう。
さて、先陣を切るのは……ゲーム性関連です。
ゲームジャンルはADVと表記されていますが、本作はテキストウィンドウの概念が無いため、私的にはNOVと言う認識でした。
絵と情景を見る限りでは穏やかな内容とも取れますが、どちらかと言えばちょっと重め……シリアスな物語と言う印象が強かったです。
ただ、要所で交わされるキャラ同士の会話や掛け合いなどは丁寧かつ楽しく書かれていて、テキスト自体は非常に読みやすく、なおか
つ引き込まれるような魅力もありました。とは言え、爽やかな笑いこそあるものの、お世辞にも明るい内容のゲームとは言えませんね。
あ、勿論鬱ゲではありませんけど。
ゲーム設定に関しては上出来な部類。ひとつの町を舞台にした伝奇(と言うよりは民話かも)絡みの設定を要所で絡めて昇華していく
展開は局所的に良くできていました。強烈な印象がある訳ではないのですが、ある種の推理小説のように先を見たくなる感覚に見舞わ
れ、止め時に苦労したことを考えると、物語への感情移入度は高かったと言えるでしょう。何気にどっぷりと浸れる物語でした。
そして勿論、キャラ単体の魅力は健在、と言うか流石。シナリオ部分で後述しますが、よくありがちな萌えや媚びと言った面を抑えつつ
も、シナリオに絡めることによって生じる魅力を十二分に発揮していた様は見事でした。キャラ単体の魅力も勿論重要ですが、それを更に
引き立てる演出がしっかりと出来ていたのはポイント高いですね。勿論普通の萌え要素も充分にありますが。
ただその反面、伝奇まがいな世界観と結末に至った後の展開に関してはかなり説明不足……と言うか未消化な点が多かったです。
掘り下げて考え出すとキリが無いぐらいに突っ込みどころ満載な内容で、正直どう解釈すれば良いか悩むこと受けあい。あれこれ考えて
自分なりに考察するのも悪くないのですが、つまりそれは作り込みが甘いと言ってしまえばそれまで。
まあ、実際はそれを補って余りある展開でしたが、補わなければもっと上質な物語になったのではと思われます、はい。
あ、あとえちシーンに関してですが、多少フェチ系な趣味に走ってはいたものの、予想よりエロかったですね。キャラによっては複数回
Hが取り入れられていたりと、この手のゲームとしては非常に健闘していたと思われます。
あと、限りなく黒に近いグレーゾーンなキャラも攻略可能なので、その手の方にはオススメ……かも知れません、はい。
現世は夢、夜の夢こそ誠……ストーリーです。
言うまでもなく本作の私的評価を飛躍的に向上させたのがこの項目。原画の雰囲気を損なわず物語を進行させた点は見事でした。
何より、最初から最後までダレることなく、シナリオ自体を堪能できたのは嬉しかったですね。この点だけでも充分高く評価したいです。
交通事故に遭い、病院のベットで目が覚めた主人公。幸い外傷は無かったものの、事故前のことを全く思い出せない状態になってい
た……と言う展開で幕を開けるちょっとシュールなノリの物語ですが、民話風味の伝説が残る町を舞台にした設定と内容自体は意外に
まとも。記憶喪失と言う設定自体はあまり良いとは言えませんが、逆にブランク状態を利用した自由な進み方が出来ると言うメリットもあ
ります。もっとも本作は別の概念でゲームが進められていましたが……しかしこの記憶喪失と言うシチュエーションはよく使われますね。
さて、肝心の中身ですが……物語自体は非常に上質でどのシナリオも読み応え充分。どことなく幻想的な雰囲気と相まり、純粋
に内容を堪能することが出来ました。特に物語への引き込み方は見事で、良い物語特有の現象でもあるついつい先を見たくなるような
展開が全編通して感じられたのはポイント高いです。
但しその反面、根底が見えづらく消化不良な部分も多々見受けられたことも事実。特に因果関係が不透明な結末や端折り方などが
盛りだくさんで、思わず首を傾げること多数。そもそも最初の設定は何だったんだと言うぐらい、展開が変わってくるのは頂けないですね。
特に本作は要所で「夢」を用いた演出があるのですが、遊んでいるうちに何処までが夢でどこまでが現実なのか解らなくなるんですよ。
まったり遊んでいると混乱すること請け合いですね。まあシナリオ演出の一環と言えばそれまでですが。
これは私的意見ですが、ゲームが終わった時点で謎や不可解な点が残る結末はあまり好みません。そのゲームでの出来事は全て
解決してこそひとつのゲームだと思っていますし……まあ、説明されていても私の頭で理解できない等の場合は例外ですが(苦笑)。
ただ、それらのマイナス点を加味しても、本作のシナリオに関しての不満は殆どありませんし、逆に良かったと断言できます。特にキャ
ラの扱いは元の魅力もさることながら、絵の魅力を別の視点でも上手く活かしていたと思われます。
と言うのも通常、絵の綺麗なゲームはそれだけで売りになると言う点を利用し、シナリオを若干切り捨ててもキャラの扱いだけはしっ
かりと重点を置く、いわゆる純粋な「萌えゲ&絵だけゲ」がメイン。しかし本作はキャラがシナリオの上で違和感無く円滑に動いているの
で、キャラ自体にいかにも的な媚びが感じられないと言う点ですね。
絵を前面に押し出しつつ、中身で勝負していたという姿勢は高く評価したいと思いますし、それでいて魅力的なキャラを演出しているの
ですから、本作が高いレヴェルでまとまっていることは間違いありません。ここは素直にシナリオライターさんの技量を誉めたいです。
まあ、不整合な点もストーリーを追いつつ、その中からいろいろ想像して楽しむゲームと考えると違う方向でも楽しめますし……。
……余談ですが、外見上あまりに無理のあるキャラが攻略出来るのはどうかなあ、というツッコミを一応捧げておきます(苦笑)。
はい。ゲームの華、CGです。
そうですね。見事と言って良いと思われます。私程度では難癖を付ける余地がありません(苦笑)。
単体で見ても、どのキャラも申し分ないぐらい魅力的に描かれていました。原画から伝わってくる空気、そして幻想的な雰囲気が
非常に秀逸だったため、それを損なわずに上手く活かしてくれるのかを注目していたのですが、その点に関しては杞憂でしたし、それさ
えクリアしてしまえば後は絵に関しての問題は何もありません。勿論淡めの塗りも綺麗でした。
あと、良いなあと思ったのが服のセンス。意外に手抜き&無視されがちな服装関連ですが、これも丁寧に描かれていたと思われます。
まあ、強いて苦言を挙げるならば、もう少し立ちグラのバリエーションが欲しかったところです。表情の変化などは良くできていたので
すが、動作などのリアクションに関しては若干動きが弱い印象を受けました。まあ重箱の隅をつつくような意見ですが、参考になれば、と。
余談ですが、本作のパッケージはエロゲ史上稀にみる名パッケージだったと思います。本来御法度な作風かつ手法でもありますが、
私的には非常に感心させられる表紙でした。ただ、情緒ある雰囲気こそ出ていたものの、直接的な訴えが殆ど感じられなかったこともあ
り、果たして実際の評価がどうであったのかは今だ疑問でもありますが……。
さて、快適なゲームを演出するには必須とも言える……システムです。
結論から言ってしまうと、システムに関しては非常に良好でした。元々システム関連では定評があるメーカーさんと言うことで今回も
特に不安要素は無かったのですが、終わってみればその予想を裏切ることなく、かなり快適にゲームをプレイすることが出来ました。
また、システムのカスタマイズ性も高く、ADV及びNOVとして必要な機能が全てと言って良いほど備わっていたのも好印象。勿論回想
モードなども完備されていますし、最近のゲームにありがちなバグも無く、終始安定した動作を見せてくれました。
ただマシン環境によってはプレイ前にコーデックやWMAドライバのインストールを必要とする場合があるので要注意ですが……。
で、とりあえずシステム関連で強烈に誉めたい&評価したいのが文章の表示形式。本作は通常の表示の他に、小説風の縦書き
表示が選択できる仕様になっているのですが、これ、凄く良いです。読みやすさが格段に違ったことに加え、ゲームの雰囲気をより
一層引き立てる役割もこなしていたりと正に一石二鳥。NOV風のゲームにおいては非常に効果的な手法ですね。
私的にはおそらく初めて経験する形式でしたが、この仕様は高く評価したいと思います。是非他社様も取り入れて欲しいですね。
あと、本作では本文中の固定用語(キーワード)をクリックすることによりシナリオが変化するという手法も取り入れられていました。
これも私的には初めてで、それ自体は面白いシステムだと思いましたが、結局のところただの選択肢と化していたのは残念ですね。
この形式を応用すれば他にもっと上手い使い道があったと思われるのですが……。
とは言え、総合的に見るとほぼ完璧と言える仕様。システムに関しては高く評価したいと思います、はい。
さて、実は何気にゲームの引き立て役……音楽です。
まず音楽云々の前に、本作はこのメーカーさんのゲームとしては珍しく音声がありません。正直最初の印象としては戸惑いの方が
強かったですね。元々私個人、音声関連はあまりこだわらない……無くても構わない派であるとは言え、こういう質の高いゲームだから
こそ音声があっても良かったと思うこともあり……まあ、逆に言えばこういうゲームだから無かったのかも知れませんが。
……話を戻しましょう。
音楽に関しては爽やかかつ幻想的風味な曲がメイン。どの曲も安定感があり、ゲーム内容&展開と非常に上手く融合していました。
ただ、音楽評価においてひとつの壁とも言える「単体で印象に残る曲」が少なかったのは残念でした。ゲーム中で使われるぶんには
何ら問題のないレヴェルだったのですが、それとは別にひとつの音楽として聞くと普通の曲になってしまうのは勿体なかったですね。あ、
そういえば唯一「思い出」だけは別の意味でイントロが印象に残りましたが(苦笑)。
そんなわけで、音楽に関しては平均以上という評価で締めたいと思います。
いや、私としては久しぶりに「当たり」でした。
何よりゲームが終わってシナリオの評価と考察をまとめている際、ふとこのゲームは絵が目的で購入したことを思い出し、思わず
苦笑いしたという笑えないようで笑える話もありましたし、それぐらい純粋にゲーム内容を堪能させて貰いました。特にシナリオに関し
ては本当にやられたな、と。
まあオチはちょっと微妙かつ理解の範疇を越えていましたが、本来の目的を考えると健闘していたと言えるでしょう。
ただ、立ちCGのバリエーションが少ないことやvoice未搭載であるなど、どこかでボリューム不足な感は否めませんでした。丁寧に
まとめつつもどこか簡潔に作ってあるような……まあ、謎を残したまま終わるシチュがあまり好きではないことも不満の一因ですが。
……結局あれで良いとは思いながらも、何か物足りないものを感じてしまったのも事実。感覚としてはふた昔前のゲームを遊んでいる
ような印象でしたね。まあ恐らくDVD版が出ると思われますので、このあたりは改善を希望したいところです。
さて、結論です。
全体的に高いレヴェルでまとまっています。手放しの評価は出せないものの、普通に遊ぶのであれば絵、シナリオと抑えるべき点は
しっかりと抑えてあるので、意欲を持って購入する場合であればまず損はしないでしょう。また、良い意味でシナリオが中途半端(伏線
回収その他が甘すぎ)なので推理小説のようにいろいろ考えながら楽しみたい人にも確実にオススメ出来る内容ですね。
逆にオススメしない理由は……特にありませんが、先程も述べたようにシナリオが上手く集束していない印象もあるので、起承転結を
しっかり求める人には向かないかも知れません。
しかし、良い意味で予想を裏切ってくれて本当に嬉しかったです。
絵の魅力を最大限に活かせば、これだけのゲームになるんだという典型的例を垣間見た感じですね。いや、満足満足。
さて、今回はこの辺で筆を置かせて貰います。
縁がありましたら、次のレビューでお会いしましょう(^^)/〜
OS=日本語版Windows98/Me/2000/XPが動作する環境
CPU=PentiumII-266MHz(推奨PentiumII-450MHz)以上
メモリ=空き32MB(推奨64MB)以上
HDD=空き容量850MB(推奨1.5GB)以上
解像度=640×480:ハイカラ−表示(推奨フルカラー)が可能であること
CD−ROM=4倍速(推奨8倍速)以上
音源=CD-DA、WMA、PCM
DirectX=不明
「原画:☆画野朗」
「シナリオ:トノイケダイスケ」
「音楽:おおくまけんいち」
「音声:無し アニメ:無し 」
「価格:8800円」
「初回特典:無し(原画集?)」
「年齢制限:18禁」
「メディア:CD」