★★★『SEVEN-BRIDGE』★★★
はじめに注意事項です。このレビュー内には表現の都合上、ゲーム内容に関してのネタバレなどが含まれている
可能性があります。ゲームをプレイ中、及び未プレイの方は、ゲームを最低一度は攻略(エンディングまで到達) した
後で、このレビューを読むことをお薦めします(勿論、未プレイの方でも大丈夫なよう、ネタバレ的要素は極力排除
しているつもりですが、排除が万全とは言えません)。以上の件、閲覧前に何卒ご理解ご了承下さい。
●− Review 序章 −●
んー、発売日を心待ちにする作品は久しぶりかも知れないなあ……。
北国が近年希に見る大雪に見舞われていた2月中旬。息抜きも兼ねて遊んでいたコメディゲーム群が一通り終了
した私は、Liarsoftさん久しぶりの新作である「セブンブリッジ」を購入する為、のんびりとエロゲショップに足を運びました。
さて、相変わらずライアー推進派を勝手に自負している私ですが、その割には全然推進して居ない今日この頃。
ライアーに精通している方は解ると思いますが、個性的な面白さと万人向けの面白さは別の話であり、その枠に当ては
めた場合のライアー作品は実に前者寄り……結局、興味を持った方だけ購入してください持論が今も継続している訳です。
とは言え、言うまでもなく本作の購入は予定調和という名の確定事項。普段からあまり特定のメーカーに執着しない
立場ではありますが、矢張り好きなメーカーの作品は率先して購入したいですし、常に相応の面白さを伴っているブランド
であれば購入しない理由もありません。更に本作は事前情報で純粋に面白そう、と感じた久しぶりの作品でもありました。
今回は敷居も低そうだし、皆にお勧め出来る作品だと良いなあ、と思いつつ本作を購入したのですが……閑話休題。
あ〜、虫は無くとも未完成、ってか。
何この決算前に間に合わせました、みたいな作品……と、思わず暴言から始まってしまう程に「惜しい」作品でした。
いや、ハッキリ言って面白かったです。先を見たくなる展開、深い物語、要所要所でのアツさは手放しで誉めても良いと
思わせるだけのクオリティがあったことは間違いありませんし、実際私も楽しく遊ぶことが出来ました。
途中までは。
いや、別に途中からも面白かったのですが、ある部分を境にして明らかにシナリオの勢いが落ちて行った様は呆れを
通り越して笑うしかなく……特に後半の失速ぶりは、それまでの洗練された展開と比較すると目に余るものがありました。
実際、本当に同一人物が担当したのかと思うほど、シナリオのテンポが速くなり、設定やキャラの掘り下げがもの凄い
勢いで端折られていくんですよ。……これが最初からであればまだ諦めもつくのですが、前半の圧倒的なまでの集中力と
物語への引き込み方を体感していたぶん、その落差が惜しかった……勿体ない作品に成り下がっていたのは残念でした。
それでも、物語の構成力と内容は並のゲームを遙かに凌駕していたのもまた事実。一歩間違えば名作の域。
だからこそ本当に惜しかったな、と言うのが正直な印象ですね……それでは、個々の見解に行ってみましょう。
A列車で行こう……ゲーム性です。
ゲームジャンルはADVで1プレイ時間は10時間程度。選択肢は中盤まででしたが、間違えると即BAD直行なエンドが
全選択肢に割り振られているので、微妙に不条理感が強かったですね。ただ、BADを前提にしている部分もあるので、
難易度は低めだと考えて良いと思われます。頑張っても絶対2〜3回は選択肢を間違えてBAD直行な場合が殆どですし。
物語本線は相手の心が読める技能……読心術を持つ主人公が、少女エマと共にプレステ・ジョアン号という名の遺失
兵器(ゴーレム列車)に乗り、目的地に向けて旅をしていく内容でしたが、何処か幻想的な雰囲気を持つ世界観と魅力的な
キャラ達は実に味があり、その中での人間模様を描いたドラマや主人公の心境変化などは実に見応えがありました。
途中までは。
ま、愚痴はさておき、個性的なキャラとその立たせ方、魅せ方は相変わらず上手いな、と。先の理由で設定を消化し切れ
ていないキャラが混じっていた(明らかにメイン格ながら、顔見せ程度で終わるキャラまで居る)のは残念でしたが、それを
差し引いても、外見内面共にお気に入りのキャラが多かったですね。また、ライアー作品の看板娘(多分)であるけーこちゃん
が珍しく前線に出ていたのは良い意味で計算外でしたし、その活躍ぶりは実に楽しかったです。
そう、設定もキャラも全てが高い域でまとまっていた作品だったことは間違いありません。ライアーらしく捻りと個性がある
点も玄人好みの内容でした。それだけに、進むに従って勢いが落ちていく様は詰めを誤ったとしか言いようがありませんね。
作品として販売した以上これが完成品だと言われればそれまでですが、それまでと言うには残念すぎる作品でした……。
後半の失速は新手の嫌がらせなのか……ストーリーです。
20世紀初頭、ヨーロッパは戦乱と黒死病の驚異により滅亡した。
そんな中、他人の心を読み取る能力を持っていた主人公は、故郷ドイツから遙か大陸の果て、北京へと逃れた。
十数年が経ち、北京の街に「黒の切符と黒の列車」の噂が流れる。その切符を手にしたものは、列車に乗り、七つの橋を
越えてヨーロッパへ行くと言う。そんな折、突然現れた少女が黒の切符を差し出し、列車へ乗るようにと主人公を誘う。
しかしその少女は口がきけず、その心すら読み取ることが出来なかった……と言う設定で物語は幕を開けます。
本来こういう言葉で括るのは良くないのですが、幻想的な空気、異質な世界観の描写は実に素晴らしかったです。
ストーリーの魅せ方、プレイヤーへの引き込ませ方も見事。要所で語りが入ったり、妙に哲学、文学的だったりと、幾分癖
のある文章は若干読み手を選ぶ仕様になっていたものの、好きな人はとことんハマるタイプの文章ですね。
黒死病云々など、多少の史実を元にパラレルなファンタジーを絡めつつ、セブンブリッジと言うタイトルの通り、主人公達が
協力しあい、七つの橋の試練を乗り越えて行く物語は、その過程やキャラ同士の絡み描写が一級品。その熱い物語は
プレイヤーをどっぷりとストーリーにのめり込ませるのに充分すぎるほどでしたし、常に先が気になる展開も見事でした。
途中までは。
いや、もう嫌がらせの如く区切ってますがこれだけ熱くなった前半に反比例し、中盤以降、特に後半の清々しい失速ぶり
は戸惑いを通り越して笑うしか無かったですね。特に、一番盛り上がる要素になり得た物語中盤におけるカイとの絡みは、
ほとんどやっつけ描写に近かったですし……最重要なバトルの描写を端折った展開にはもう笑うしかありませんでしたよ。
実際、シナリオ後半は明らかに全ての要素がおかしくなっていた訳で。
意味のないキャラ、早すぎるシナリオ展開、伏線や設定の甘さなど、なまじ途中までが素晴らしい内容だっただけに、
時間がないから慌てて作りましたよ&途中だけどこれでまとめてしまえ、と言わんばかりの展開には頭を捻るばかり。
後半の所為で若干前半が美化された部分もあるかも知れませんが、それを差し引いても失速していたと言うか……。
風呂敷を畳めないからとか、そう言う次元の問題ではなく、単に急ぎすぎただけにしか見えなかったのは致命的ですね。
一体何が原因でこうなったのかは解りませんが、前半から中盤にかけてこれ以上ないぐらい上がったテンションが、後半
になるにつれて行き場を失なってしまった訳で……。最初から最後まで後半のペースで行けば諦めもついたのですが、
前半であれだけのシナリオを見せつけられた立場としては、後半の展開に満足出来る訳もなく……。
ま、ライターさんとしてはこれで完成なんでしょうけど、ね。今更時間が無かった云々という言い訳はあり得ませんし。
ただ、プレイヤーの期待をあっさり裏切ってしまったのは事実ですし、こんな半端な評価を与えられること自体が勿体ない
という気もしました、ね。……本来はこんなにアバウトなシナリオを書く方では無いと思うのですが。
それでも、幸いなことにエンディングが上手くまとまっていた(納得出来た)ので、最悪の評価、というラインは回避する
ことが出来ていたかな、と。……故に、諄いようですが中盤〜後半の「転」を端折った代償があまりにも大きすぎた訳で。
さて、ゲームの華、CGです。
原画担当はライアー作品では割とお馴染みの中村哲也さん。癖のある絵を描く方ですが、悪い意味の癖ではなく、
私的には好きな絵師さんの部類に入ります。個性的で魅力的な絵を描く人ですし、言い方は兎も角として、癖のある
ゲームには癖のある絵が良く合う場合が多いので、本作の内容に上手く沿った絵柄(作風)を提供していたと思われます。
まあ、エロゲという枠に当てはめると正直若干辛い部分もありましたが、相応にエロいので個人的には有りかな、と。
何よりも、先に述べたように癖には癖を……本作から滲み出る幻想的な世界観と上手く融合していた絵だと思われますし。
で、彩色その他は良好。背景も綺麗でしたし、時折混じっていた実写取り込みっぽい絵も良い味を出していました。
余談ですが、オープニングムービーはその音楽も相まって実に格好良かったですね。久しぶりに惚れ惚れしましたよ。
後は……厳密にはシステム側の見解に入りますが、本作はCGのサイズが少々特殊な仕様だったのが難点でした。
ゲーム画面自体は800×600だったものの、ゲームにおけるフルCGが若干横長……ワイドTVっぽかったんですよ、ね。
演出としては良かったと思われますが、鑑賞する側としては、上下が遮断されたフルCG仕様に少々戸惑ったかな、と。
虫が見つからないなんて……システムです。
ゲームジャンルがADVということでさほど複雑な機能は必要ない&搭載していませんでしたが、最低限の機能は揃って
いましたし、システム自体も一時期の騒動が嘘みたいに安定していたので、普通に遊ぶと言う点では特に不満が無い仕様
になっていました。最近個人的に気になっているCPU使用率も低かったですし。……って言うか普通に遊べたし(苦笑)。
ただ、選択肢単位のスキップ機能やSEとしての喘ぎ声など、非常に便利かつ特徴的な仕様もある反面、ウィンドウの
最小化が出来ない、メッセージ履歴が見づらいなど、かゆいところに手が届かなったのもお約束。それでもかなりの進歩。
強いて言えばCGサイズの関係上、メッセージウィンドウの濃度調整が全然活躍しなかったかな、と。……勿論立ち絵時
の透明度は変わりますが、特殊なサイズのCGを使っていた余波が出ていたと思われますね。
で、今回一番のツッコミどころは音声の使い方。本作における演出の一環としてテキストを表示せず音声のみで会話が
進行するという演出がありました。心の声が読めるハタ迷惑(苦笑)な主人公ならの演出とも言えますが、これが物語の要
所で使われていたのは事実。その心の声自体は括弧内にテキストで書かれている場合もある(主に重要な台詞)ものの、
時折何の前触れもなくバックグラウンドで流れるのが少々厄介でしたね。臨場感を出す&本来意図するところである演出だ
と解釈すれば実に斬新かつ面白い演出と言えるものの、結果的に音声有りのプレイが必須……とまでは行かなくても、
推奨の域に入っていたのは難点でした。ただ、その癖に途中からは一部ボイスになってましたけど、ね。
大は小を兼ねる……音楽です。
本作の音楽担当はelements-gardenさん。これまでのライアー作品はNBSさんというイメージが強かったので、少々不安を
抱きつつ遊んでみたのですが、上手い……と言うか地味に凄かったです。私的には初見の音楽チームでしたが、様々
なジャンルで後半が崩壊していた本作において唯一最後まで気を張っていたのが音楽だったと言って差し支えありません。
音楽自体は多国籍色が強く現れていましたが、何処か幻想的かつ儚さが漂うゲームの雰囲気にピッタリな曲が多く、
実に堪能することが出来ました。アコギっぽかったりミュージカルっぽかったり何故かタンゴまで入っていたり……言い方は
悪いですが、エロゲの曲とは思えない……コンシューマRPG等で使われそうな曲が大半でしたね。個人的には大満足。
なお、今回も曲の一部はGMP社の素材を使用しています。
個人的に、有名な曲をそのまま引用する、と言うスタンスはあまり好きではない(オリジナルで勝負して欲しい)のですが、
場面のインパクトという面では良い方向に動いていた曲が多かったので、結果的には良い方向に動いていたと思われます。
ただ……曲数が多すぎ。少ないのも論外ですが、多すぎるのも正直困る……と言うか個人的には結構戸惑いました。
実際本作はサウンドモードに約80曲ほど収録されているのですが、これは異例とも言える曲数です(通常の3〜4倍)。
勿論どの曲もクオリティは非常に高く、単品BGMとして聞くのであれば手放しで誉めて良い曲が揃っていたのですが、
その多さが災いし、あまりにも使う箇所(シーン)が限定されすぎていて逆に印象に残らなかったんですよ。皮肉なことに。
そもそも10時間程度のゲームでこれらの音楽を割り振りすると、必然的に1曲ごとの使用時間は限られます。いくら良い曲
が多くても、使うシーンが少なければ必然的に印象が下がる訳で……後々聞く分には兎も角、評価する側としてはかなり
扱い辛い……余程のことが無ければ印象に残らないと言う評価になってしまったのは残念というか損をしていたと言うか。
後は……音声に関しては概ね良い感じ、と言うか良いキャスティングだったかと。
けーこちゃんの声がなかったのが残念でしたが、作品ごとの登場頻度を考えると仕方がないのかも知れませんね。
ただ……音声がフルボイスで無かった点は本当に残念でした。例の如く途中までは、と言うアレですが後半がスカスカ。
そもそも演出効果を音声に頼る仕様でありながらその役目を途中で自ら放棄した(一部ボイスになった)のは甚だ
疑問ですね。正直これなら声無しで作った方が何倍も良かったですし、まだ諦めもついたのですが……。
ま、今更ですが全ての批評が後半の展開に集約されてしまったと言うことで(苦笑)。
ある意味分かり切った評価になってしまいましたが……。
兎に角、前半〜中盤までと後半とのシナリオ格差があまりにも致命的でした。誰がどう見ても後半部分のシナリオが
パワーダウンしていたことは明らかですし、これが本作における印象と評価の全てを物語っていると言えるでしょう。
悪いなら悪かったで諦めもつくんですよ。最初から後半みたいな端折り展開であればまだ諦めもつきます。
ただ、前半〜中盤のテンションと勢いが最後まで続けば、名作、傑作になり得た……可能性を秘めていただけに、後半の
失速ぶりがあまりにも目に余り、結果的に惜しい作品という印象に……返す返すも残念でした。
……ほとんどの意見がこれで統一されるのではないかと危惧するぐらいの内容だった点は、ある意味凄いことですが。
ホント、途中までは良かったのに……。
それでも、全体を通して見た場合、並のゲームより遙かに楽しめたことは間違いありません。
先が気になる展開、魅せる&読ませるシナリオ。上手くまとめたエンディング……作品としては及第点以上かと。
さて、結論です。
一見さんへのお薦めは無理です。未完成とまでは言いませんが、お薦めするには後半の端折りぶりがあまりにも痛すぎ。
あらかじめ興味を持っていた人やメーカーのファンが買う分には自信を持ってお薦めしますが、逆に言えばそれ以外の方
にはお薦めしたくありません。と言うか、買わない方が良いです。
ただ、それでも遊んで欲しいかな、と。矛盾は承知ですが、ファンタジー色の強い魅力的なシナリオ、幻想的な世界観、
個性豊かで魅力的なキャラクター……後半こそ残念でしたが、それ以外は全てが高い域でまとまっていた作品だったこと
もまた事実。……申し訳ありませんが、こうとしか言いようがありませんね(苦笑)。後は自己判断にお任せと言うことで。
時間不足かライターの限界か、はたまた意図したものなのかは解りませんが、本当に惜しい作品でした。
それでも、購入して良かったと思えるところは流石ライアーと言うか、単に自分がメーカーのファンだったからと言うか……。
さて、今回はこのあたりで筆を置かせて貰います。
縁がありましたら、次のレビューでお会いしましょう(^^)/〜
OS=日本語版Windows98SE/Me/2000/XPが動作する環境
CPU=PentiumII-300MHz(推奨PentiumIII-500MHz)以上
メモリ=128MB(推奨256MB)以上/XPは256以上必須
HDD=空き容量1.2GB以上
解像度=800×600:フルカラー表示が可能であること
DVD-ROM=倍速以上
音源=PCM
DirectX=必須
「原画:中村哲也」
「シナリオ:星空めてお、茗荷屋甚六」
「音楽:Elements Garden、Blueberry&Yogurt」
「音声:有り(一部) アニメ:無し」
「発売日:2005年02月18日」
「価格:9240円(税込)」
「初回特典:無し(期日までの予約者には小冊子)」
「年齢制限:18禁」
「メディア:DVD」
「Ver:1.00(初期ロット)」
注:2003/01より点数形式を変更しました(50→100点満点)