★★★『Ricotte』★★★
はじめに注意事項です。このレビュー中には表現の都合上、ゲーム内容に関してのネタバレなどが含まれている
可能性があります。ゲームをプレイ中、及び未プレイの方は、ゲームを最低一度は攻略(エンディングまで到達) した
後で、このレビューを読むことをお薦めします(勿論、未プレイの方でも大丈夫なよう、ネタバレ的要素は極力排除
しているつもりですが、排除が万全とは言えません)。以上の件、閲覧前に何卒ご理解ご了承下さい。
●− Review 序章 −●
あっさりと無職になるわ、遊ぶエロゲは底を尽きるわ……全然大丈夫な生活じゃないよなあ、自分。
一身上の都合で3年半ほど勤めていた会社を退職した10月の上旬。私はここぞとばかりに何もせず、ただひたすらに自堕落な
日々を過ごしていました。まあ、そう言いつつも退職後最初の10日間はゴロゴロと京都寺巡りの旅を楽しんでいましたが(苦笑)。
そんな生活も一段落し、職安に足を運ぶようになった10月の中旬。暇な今のうちにエロゲを購入してあれこれ楽しもうと思い、
雑誌片手に情報収集を始めたまでは良かったものの、お約束の如く興味をそそられるような作品もなく、あっさりと手詰まり状態。
これは個人的にもサイト的にもマズイよなあ、と苦慮していた矢先、ふと耳に入ったのがRuneさんの新作「リコッテ」でした。
さて、実はこの作品、元々絵師さんのファンということもあり以前の私であれば間違いなく購入していた作品でした。
しかし、とある事情でRuneさんのデフォルト購入を保留するようになり、以前のように原画購入をすることも無くなっていたのです。
そんなこんなで今回もあっさり見送り……と言う名の評価待ち(注:レビューサイトにあるまじき行為)をしていたのですが、改めて
調べてみると各所の評判も概ね好評で、懸念していた鬱系の要素も殆ど無いことが判明。即ち購入意欲が普通以上に上昇。
とりあえず息抜きがてらまったり遊べれば良いや、と思いそのまま本作を購入したのですが……閑話休題。
ん〜、安直な台詞ですが、タイトル通りのゲームでしたね。
看板に偽り無しと言うのもある意味おかしな例えですが、良くも悪くも「リコッテ」と言うヒロインを軸にして作られていた
物語であったことは間違いありません。勿論リコッテの他にも魅力的なキャラは多数登場しますが、あくまでも物語中における
脇役の域を超えず、全てをメインヒロイン一本に絞った物語を演出していた点は正にタイトル通りの作品だったと言えるでしょう。
また肝心の作品そのものも、そつなくまとまった良質ADVとして楽しむことが出来ました。極端に特筆すべき点こそ無かった
ものの要所で垣間見ることが出来たリコッテの懸命さや可愛さはそれだけで魅力的でしたし、音楽や演出などの各要素に関しても
非常に丁寧に組み込まれていたため、良い意味でそつのない作り……完成度になっていた点は高く評価したいですね。
あと、個人的にまったり系のゲームを好む立場として、本作は実に有意義に楽しめた作品だったことを付け加えておきます。
ただ……良くも悪くもリコッテ(と主人公)の物語としての側面が強かった為、全編通して浮気厳禁と言う名の展開に絞られて
しまったのは個人的に勿体なかったなあ、と。リコッテがヒロインとして充分な魅力を兼ね揃えていたことは言うまでもありませんが、
それを踏まえた上での各種個別ルートが欲しかったところですね……。いや、私は年上風味属性持ちなもので(苦笑)。
それでは、個々の見解に行ってみましょう。
どことなく絵本の世界を感じさせるような町並みが心地よい……ゲーム性です。
本作のゲームジャンルは選択分岐式の恋愛ADV。攻略可能なキャラがヒロインのみと言う、ある意味で完全な一本道&デジコミ
形式の作りになっていましたが、裏を返せば細部に至るまでヒロインの物語にこだわった作りとも言えるので、本作のように特定の
キャラを全面に押し出す類のゲームに関しては、キャラを魅せるという点で非常に正しい作風&手法だったと言えるでしょう。
また、系列は違えどクラシック系の音楽観賞や各種ミュージカルに時折足を運ぶ立場として、本作のテーマである「音楽」と言う
ジャンルは実に魅力的かつ興味をそそられた要因であり、その舞台となる世界観に関しても近代欧州系の風景が漂う本作の設定
と演出は実に自然で好感が持てました。世界観の描写と言う面では素直に上手かったなあ、と。
さて、そんな世界観の下で繰り広げた物語ですが、結論から言うと良質のまったりゲー。最後まであれこれ気負うことなく本作を
遊ぶことが出来た点は好印象でした。勿論相応の起伏はありますが、ヒロインを始め各キャラの魅力にも助けられ、最初から最後
まで心地よい物語を堪能させて頂きました。1プレイ時間は思ったよりも長めでしたが、ドタバタ劇が入り交じった日常描写の演出が
丁寧だったことに加え、各種イベントや演出が適度に配置されていた為、中だるみをほとんど感じなかった点も好印象でした。
と、大体の内容に関しては標準以上の評価を出せるのですが、ある意味で問題なのがヒロイン。外見その他は保留するとしても、
完全に妹系なキャラなので性格(世間知らず、無邪気、やきもち焼き)が合わなければそもそも論外であり、ゲーム自体を楽しむこと
が出来ない可能性もある諸刃の剣(苦笑)。勿論好きな人には申し分のないキャラであることは間違いありませんし、本作を購入した
大部分の方は全く問題なく楽しめたと思われますが、合わない人には厳しい作品になっているのも事実でした。
あと、若干余談気味になりますが、このメーカーさん(と言うより原画家さんか……)のゲームにしては珍しくおねーさん系
キャラとのえちが多めだったのは個人的に嬉しい誤算でしたね。えちシーン自体も平均以上にエロくて嬉しかったです、ええ。
音楽がどのような役割を果たすのか……ストーリーです。
かつて造船で栄えた町、クワルク。
今では人もめっきり少なくなってしまったその町の一角にあるパブでピアニストとして働く主人公は、ひょんなことからリコッテと
名乗る少女と暮らすことになる。無邪気でわがままなリコッテに振り回される主人公だったが、ある日、何気なく聞いたリコッテの
歌がとんでもなく上手いことに気が付き、彼女にパブで歌うことを勧めてみる。
そして二人の演奏は徐々に、しかし確実に好評を得ていくのだが……と言う設定で物語は幕を開けます。
で、そのシナリオ本線は概要通りの進行です。小さな街のパブの日常を舞台にした物語がリコッテを中心に面白おかしく進め
られていきますが、ひとつ興味深かったのが本作のシナリオ分岐。本作は開始直後の選択肢で物語が大きく分岐……具体的には
2つの物語(Largo、Allegro)に分岐し、主人公の置かれている立場が若干変わるという珍しくも面白い仕様になっていました。
勿論大筋(結末)に極端な変化はありませんし、それぞれのルートには互換性が無いため、単純に2つのシナリオを楽しめる点は
面白かったのですが、双方とも最終的にリコッテとのEDであることに変わりは無く……いや、それが悪い訳ではありませんけど……。
また、2つのシナリオに共通している点は恋愛ADVとしての高い完成度もさることながら、音楽的な要素をメインに取り入れていた
ことですね。具体的には要所で奏でられるリコッテの歌がメインとなりますが、その歌をサポートする主人公のピアノ演奏も良い形で
組み込まれていたと思われます。このあたりは流石音楽をテーマにしているだけのことはありました。
ちなみにシナリオ自体は基本的にまったりほのぼの和気藹々な掛け合い要素盛りだくさん。特にキャラ同士の掛け合いは遊んで
いて面白かったですし、リコッテの世間知らずかつ純粋な行動も微笑ましかったです。勿論後半は相応に山あり谷ありですが、深く
考えないでプレイすることを信条とする私でも先が見える程のストーリー&シナリオそのものが丁寧に書かれていたこともあり、最後
まで安心して進めることが出来ました。事実、予想を裏切らない展開ながらも楽しめる作りになっていた点は非常に好印象。強いて
言えば基本的に悪役キャラがいない展開は個人的に有り難かった反面、中途半端な悪役が多かったのは首を傾げるところ。
シナリオの演出上、悪者を演じる存在は必要だったとは言え、一定の役をこなした後の態度があっさりと変わりすぎ(苦笑)。
……正直その程度の悪者なら最初から要りませんよと言いたかったです、ええ。
ただ、矢張り本作の小さな問題にして最大の問題がヒロインであるリコッテの存在。くどいようですが本作は良くも悪くも
彼女メインのシナリオとなっているため、彼女に萌えるか否かで道中の各種イベントやシナリオの評価が大幅に変化することは
間違いありません。彼女に愛着が持てれば単純な萌えや相乗効果的な評価向上にも繋がりますが、逆に愛着を持てなければちょ
っと良いシナリオ程度の評価になってしまいますし……。この点、結果的に遊び手を極端に選んでしまった感は否めませんでした。
まあ三人娘を筆頭としたサブヒロイン達が予想外に魅力的だったので彼女たちの個別シナリオが欲しかったなあ、と言うのが本音
ですが(苦笑)。ある意味リコッテよりもヒットした立場としては、それが間違いであると理解しつつもいろいろと残念でした、ええ。
さて、ゲームの華、CGです。
原画担当は野々原幹さん。個人的には非常に好きな絵師さんであり、購入動機の半分以上を占めている立場としては大体の
評価が決まっているようなものですが……いや、流石は野々原さんでした(苦笑)。可愛いキャラを描く、魅せるという点では流石と
言って良い作家さんですし、実際この路線においては業界トップクラスの手腕を持っていると言うのが私的評価です。彩色に関しては
以前に多様されていたセル塗りが影を潜めてしまった点が少し残念でしたが、彩色自体のクオリティは非常に高かったことは間違い
ありませんし、背景などの素材に関しても時代設定にしっかりと沿った雰囲気を醸し出して居た点は高印象でした。
ただ、良くも悪くも可愛い系な絵柄で定評があると言う点、受け付けない人は全く駄目な類の絵柄であることも事実。
今回は年上キャラの比率が多かったとは言え、元が可愛い系の絵を描く人な所為(もしくは私の偏見)もあり、結果的に年上
キャラも相応に「可愛く描けて」しまいCGを見る限りでは大人の魅力があるのか無いのか今一不透明な印象を醸し出して
いたような気がしてなりませんでした。いや、中身や行動はしっかり年上しているんですけどね……。
結局、一番原画が生きていた(魅力的に感じた)のがリコッテだったことを考えると、正ヒロイン云々以前に、矢張りお子様系
キャラを描くのが上手い原画家さんなんだな、と再認識。まあ本作を購入する殆どの層はリコッテをメインに考えていると思われる
ので、杞憂な心配&見解と言えばその通りかも知れませんが……。
裏方でありながらも欠かせない要因……システムです。
ゲームジャンルがADVと言うこともあり、元々最低限のシステムさえ整っていれば普通に遊べることは間違いありませんが、
本作に関しては基本的機能をすべて完備しつつ更に細部に至るまで丁寧に作られていたため、これ以上ないぐらい快適にゲームを
進めることが出来ました。メインシステムに関しては全くと言って良いほど不満らしきものはありませんでしたね。
特にコンフィグ周りに関しては多機能ながらも複雑すぎず、ストレスなくゲームを遊ぶことが出来ました。この点は何気に高評価。
また、ビジュアル面に関しても明らかに無機質かつ素っ気ないシステム画面が多い中、本作は視覚的配慮も考えて作られていた
点も好印象ですね。まあRuneさんの基礎システム周りは元々定評があったので今回もそれに沿った完成度だったと言えるでしょう。
ただ、あえて細かいツッコミを入れさせていただくと、マニュアルにキャラ紹介はぐらい書いて欲しかったな、と。通常版が素っ気な
かっただけかも知れませんが、パッケ裏に細々書いてあるだけ言うのは少し寂しいものがありました。
あと個人的な環境依存の話になりますが、インストール関連で思いっきりトラブったのはあまり良い印象では無く……。依存バグと
言う報告が上がっていたので手動インストールで解決しましたが、出鼻を挫かれたのは言うまでもなく……ん〜。
ゲームの引き立て役であり、本作にも深く関わっている……音楽です。
音楽担当はサウンドチーム「feel」さん。単純な音楽としての出来もさることながら、全体的なクオリティと言う点に関しても定評が
あるチームなので何気に期待しつつのプレイ&観賞となりましたが、結果的に期待相応の音楽を提供していたと思われます。特に
今回は透明感のある曲が非常に多く完成度も平均以上。勿論それ以外にもコミカルな曲やマーチ調の曲など、作風は充実していま
したし、場面相応もしくは引き立ての音楽としてしっかり成立していたと思われます。
で、先にも少し述べましたが、本作はゲーム自体が「歌姫」の物語なだけあり、要所で歌が流れる&多い構成になっていました。
挿入歌などを含め、歌がデフォルトで4曲あると言う点からも気合いの入り方が伝わってきましたが、実際歌自体の使われ方は非常
に上手く、演出的にも大変良かったと思われます。勿論歌としてのクオリティも高かったことは言うまでもありません。
それと、もうひとつ特筆すべき点として、主人公が奏でるピアノ。主人公がピアニスト志望という設定もあり、歌同様、要所で音楽が
挿入されるのですが、これも歌同様、非常に良い曲が多く、堪能させて貰いました。
ただ……いかんせん歌い手が若すぎ(苦笑)。個人的には声質が合わず(どちらかと言えば苦手な声)、歌自体を純粋に
堪能出来なかったのは結構な痛手&ミスでした。可愛い系の声を好む人にとっては最高な曲が揃っていたと言えるのですが……。
元のメロディ自体が秀逸だっただけに、それを堪能出来なかったのはある意味で勿体なかったです。
あと、余談的になりますがC.V.に関しては男性、女性キャラ含めて全く問題なしかと思われます。
リコッテ(の声優さん)に関しても単純なvoiceと言う面では上手かったと思うのですが……難しいですね。
いや、今回は額面通りの内容で本当に助かりました……。
先程から散々言っていますが、本作の評価はリコッテに愛着を持てるか否かが全てでしょう。シナリオ自体は大きな欠点もなく
綺麗にまとまっていたので普通に遊ぶだけでも相応に楽しめることは間違いありません。ただ、矢張り本作のメインはリコッテであり、
彼女を中心に物語が動く関係上、彼女を好きになれるかどうかで主観的な評価が大きく変わるのも事実です。
……まあ今更ですが正直自分はキツかったです(苦笑)。いちヒロインとしての認識、好感は持てましたが、それ以上の要素……
特に萌え云々は全くと言って良いほど持てなかったので、良質ADVと言う評価に留まったのは確実に損をしているかも知れません。
勿論ゲーム内容を把握した上で(この状態を予想して)本作を購入しているので、この点で文句を言うのは完全に筋違いですが。
さて、結論です。
まず言うまでもありませんが、絵(リコッテ)目的で購入するぶんには何ら問題ありません。内容もほのぼの系なのでパッケージや
雑誌記事を見て興味を持った方は問題なく楽しめると思われます。あと、ロリ属性な方には確実にお薦め出来ますね(苦笑)。
反面、リコッテの見た目(中身も大体見た目どおりです)が受け付けない人は大人しく回避したほうが賢明だと思われます。
シナリオ自体は平均以上の完成度になっていますが、肌に合わないキャラの物語を無理をしてまで見る必要はありませんし……。
また、おねいさんキャラは沢山出てきますが、言うまでもなくメインヒロインはリコッテなので、過度な期待をすると肩すかしを食らう
ことは間違いありません……と、経験者である私が無駄に熱く語らせていただきます(苦笑)。
そうですね……なんだかんだで良質のまったりゲーとして充分楽しませて頂いたかと。
気負わずに遊べながらも先が気になるシナリオでしたし、ゲーム全体から暖かい雰囲気が伝わってくるかのような作品でした。
ただ、ヒロイン(の性格その他)がもう少し肌に合えば、更に良い評価を出せていただけに……その点は非常に残念だったな、と。
さて、今回はこの辺で筆を置かせて貰います。
縁があれば、次のレビューでお会いしましょう(^^)/〜
OS=日本語版Windows98/Me/2000/XPが動作する環境
CPU=PentiumII-266MHz(推奨PentiumIII-450MHz)以上
メモリ=64MB(推奨128MB)以上
HDD=空き容量600MB(推奨1GB)以上
解像度=640×480:ハイカラー(推奨フルカラー)表示が可能であること
CD-ROM=実装必須
音源=PCM
DirectX=Ver6以降
「原画:野々原幹」
「シナリオ:千籐まさと」
「音楽:feel」
「音声:あり(Full) アニメ:無し 」
「発売日:2003年09月26日」
「価格:初回9800円、通常8800円」
「初回特典:有り(サントラ、他)」
「年齢制限:18禁」
「メディア:CD」
注:2003/01より点数形式を変更しました(50→100点満点)