★★★『パンドラの夢』★★★
はじめに注意事項です。このレビュー中には表現の都合上、どうしてもゲーム内容のネタバレなどが含まれている
可能性があります。ゲームをプレイ中、及び未プレイの方は、ゲームを最低一度は攻略(エンディングまで到達) した
後で、このレビューを読むことをお薦めします(勿論、未プレイの方でも大丈夫なよう、ネタバレ的要素は極力排除
しているつもりですが、排除が万全とは言えません)。以上の件、何卒ご理解ご了承下さい。
●− Review 序章 −●
まあ、元が還元購入だし、レビューを書く資格があるのかと言われれば微妙なところだけど……。
周りの人間を散々巻き込んだドタバタの末、ようやく自分のペースを取り戻しつつあった11月下旬。私は某家電販売店のエロゲ
コーナーに足を運び、一応の予定だった本作「パンドラの夢」を購入。その後、躊躇うことなく本作を積みゲ棚の中に放り込んだのです。
さて、何故に新作を積みゲ棚に送ったか……ある意味凄い話ですが、実は本作「私的還元買い」と言われるゲームに属します。
明確な購入(プレイ)意欲を持たず、いち個人の義理人情のみで購入するという、いわば暇人にしか出来ない行為です(苦笑)。
……事の発端は約一年前。私的に音楽の評価が高かった「プリズムハート」の音楽担当であるOdiakeS氏監修の元、その音楽を
アレンジしたサントラ「ハートの風車」が発売されました。勿論私は躊躇うことなくそれを購入したのですが、その際なんらかの手違いで
内容物に欠品があることに気づき、どうにかならないかとメーカーさんにメールを送ってみたのがそもそものきっかけでした。
その際、似非社会人たる私がメールを打ったのは夜もそこそこに遅い時間。そんな状況で送ったにも関わらず、メールレスポンスは
なんとその1時間以内。これはメーカーさんからのリターンメールでは過去最速であったと同時に、今でも破られていない記録です。
勿論、問題の件についても全て快く応じてくれたお陰で(矢張り返信は早かった)、欠品配送と言う形で問題は無事解決となりました。
さてこの一件、別にこちら側に非があったわけではありませんが、私としてはこの対応、非常に好印象な出来事でした。
これは次回作、もしくはそれに準じたもので還元を……ということで、私なりの御礼をしようと考えたのが本作購入の原因なのです。
事実、義理人情で動くことの多い私としては、メーカー還元と言う名の下、このような形で細々と貢献することは良くあります。
……エロゲユーザーはメーカーに甘いと言われているのはこのあたりが原因かも知れませんが(苦笑)。
そんなわけで、いつもとはちょっと違う前振りを書きつつ、本作のレビューをまとめ始めたのですが……閑話休題。
……こ、このぶちキレそうな演出効果、かなり辛かったんですけど(苦笑)。
いや、実は開始10分で一度ぶちキレました(苦笑)。後々慣れてはいったのですが、ADVの概念を根底から覆しかねない特殊演出
効果に呆れと戸惑いを感じつつゲームを進めていたというのが本音ですね。
とにかく要所で目に付いたのは画面効果をフルに使った漫画チックな五月蠅い演出(VENUSystem)。時折「あっ」と驚く演出を
魅せていた反面、通常時はあまりの悪ノリ風味に付いていけず、思わず頭を抱えたこと多数。なんとも表現しづらいゲームでした。
まあ、例えれば動きのある漫画に挿し絵有りの小説が時折混じるという感じなのですが……このあたりは後ほどいろいろと。
しかし、やたらと演出がドタバタしていた反面、肝心のゲーム自体は意外にもシリアスかつ重い展開が多く、表面上のノリやキャラ
イメージとのギャップがかなり激しかった印象が強いです。ちょっと言い方は悪いですが、重苦しい場所で漫才を見ていたような感じ。
挙げ句、ギミックとなるループ世界の見せ方と演出は優れていた反面、内容が設定に負けているように見受けられた部分も多々あり、
要所の結末には相応の疑問……というか、残念に感じてしまった部分がありました。このあたりは当初の予想と反した雰囲気もあり、
私個人としては最後まで違和感が消えなかったかなあ、と。
それでは、個々の見解に行ってみましょう。
Visual Effective Novelty Unite System ……略してVENUSystem. ゲーム性です。
正式ジャンルはループADVと言う名称でしたが、実際の認識はADVで問題ないと思われます。1プレイに要する時間は7時間程度と
若干長めですが、本作はシングルエンド形式になっているため、感覚的にはそれほど長い印象はありません。なお、ヒロインは複数制
ですが、先に述べたようにマルチエンドでは無いため、章ごとの個別エンド形式(=各ヒロインごとの暫定END)になっています。ただ、
最終的にはエピローグで同一になってしまうので、厳密に言えば個別エンドとは言えませんが。
本作でまず興味を引いたのはループADVという点です。これに関しては素直に上手い手法だったかな、と。最近この類のジャンルは
良く聞くようになりましたが、その名の通り物語がループすることにより、同じ視点を繰り返しながら少しづつ謎を解き明かしていくという
シナリオは、段々全容が掴めてくるという効果も相まって先へ先へと進める力もあり、プレイヤーを上手く物語の中に引き込ませる展開
になっていたと思われます。勿論本作も同様。
しかしその反面、先へ進むにつれ、どうもループ世界と言う設定に内容が伴っていない……設定倒れの印象を受けたのはちょっと
理不尽だったかなあ、と。まあ、根底のテーマが「夢」な所為もあるとは思いますが、それを差し引いても不可解。
ゲームが終わってみると、謎が解けたのか解けないのかよくわからない状態でゲームが終わってしまったような印象が強かったのが
その象徴と言えるでしょう。
また、先程から繰り返しているように、ある意味でメインとも言えるゲーム演出……ゲーム内におけるキャラの感情やその他の状況を
視覚効果的に演出していたVENUSystemですが、これも一長一短。
最初のうちは演出が肌に合わなかった為、プレイ中にやたらと機嫌が悪くなったのは先に述べましたが、それはあくまで好みの問題。
実際は非常に面白い手法が取り入れられていて、要所要所で光るものがありました。特に上手いなあと感じたのは 遠近を上手く
使ったCGの切り替えやTVの反射ですね。笑い話かも知れませんが、こういう演出も出来るんだなあ、と素直に感心しましたし。
ただ、それだけにゲームの雰囲気に反比例しているほどやりすぎな部分が要所で見られたのは、残念としか言いようがありません。
演出のみを見ると非常に革命的とも取れるので、それをプラス方向に生かす内容が欲しかったところです。
さて、ループワールドを如何にしてまとめ上げたのか……ストーリーです。
夏休みを使った美術部一週間の合宿。主人公が夢の中で聞いたセリフが現実で繰り返されることに疑問を感じながらも和気藹々
ムードで進む合宿。そしてあっという間に合宿も最終日になり、皆がそれぞれ解散。……しかし、そこで主人公は妙な感覚に襲われ、
ふと気が付くと、そこは何故か合宿の初日だった……。
この合宿が何故か終わらず延々とループしていることに気が付いた主人公は、原因を突き止めるために動き出す……という感じで
物語は進行していきます。ちなみに、先に述べましたがシナリオは章ごとの区切りこそあるものの、一本道のシングルエンド形式です。
最初のうちは随分と喧しく楽しげにゲームが進み、なかなか面白そうだと思ったのもつかの間、後半になるに従い、どんどんと
重苦しい雰囲気に包まれていくと言う、ある意味で昨今のお約束と言える展開でちょっとがっかり。まあ食傷気味ではありますが、
シナリオ自体は最後まで通して読めたので、文章を読ませる……プレイヤーを世界に引き込ませるだけの魅力はあったと思われます。
ただ、私にとって痛かったのは、矢張りギャグとシリアスの落差が大きすぎたことでしょう。勿論そういったゲームは嫌いでは
ありませんし、高く評価しているゲームもあります。しかし、それはあくまで後味が良ければという前提。ハッピーエンド主義の私には
本作の結末がちょっと苦痛だったことは事実です。確かに痛い系ですよという話は雑誌記事でも読んでいましたし、物語の筋自体は
通っていたものの、その結末で納得できるだけの説得力があったかと言えば疑問ですね。例えご都合主義と言われようとも、
もう少し後味の良いEDが欲しかったところです。
というか、シングルエンド形式にしたこと自体が間違いだと思うんですよ。個別のED(エピローグ)があればもう少し救われたと思い
ますし、その方がシナリオ的にも良かった気がしました。何より根底がシリアスなゲームに対し、キャラクターが完全に浮いていたかな
あ、と。特に序盤を見てしまうと、尚更辛いですね。折角の笑える展開も最終的には浮いているようにしか見えなかったのはあまりに
残念でした。折角の魅力的なキャラを活かしていないなあ、と。
あと、余談になりますが、流石に4000日は引きました(苦笑)。
しかも、あの場面の途中で冷めてしまったので、最後がどうでも良くなってしまったのは致命的でしたね。
さて、ゲームの華、CGです。
原画は大野哲也さん。原画自体のレヴェルは非常に高いのですが、世間一般で言う「癖のある絵」に分類される為、人を選ぶ作風
であることは間違いありません。私的には苦手な部類の絵柄なのですが、作画の基礎レヴェルが高いので、嫌いな訳ではありません。
……ちなみに作風としてはロリぷに系と言うのが私の認識です(苦笑)。
ただ、こう言っては何ですが、絵柄は可愛い系な反面、エロゲには向いているようで意外に向いていない作風じゃないかと。
どちらかというと少女漫画でも描いていた方が似合っているような気がするのですが……。
なお彩色に関しては特に問題なしですね。若干諄めではありますが、原画を生かした塗りに仕上がっていることは間違いありません。
さて、ここでも取り上げる点としては矢張りVENUSystemでしょう。新名称を強引に作ってしまうだけあり、立ちグラの表情変化(という
か殆どがオーバーリアクション)にはこだわりを感じましたが、先程から話しているようにゲームの展開的にはちょっと不釣り合い。私的
にはあそこまでやられるとちょっとやりすぎな感を受けました。……なんだか間違った方向に進化してしまったなあ、と。
他の背景演出やフェードアウト式のCG切り替えなどは非常に秀逸な完成度を誇っていただけに、この点だけは勿体なかったですね。
それでも、CG全体はキャラが壊れつつも魅力を遺憾なく発揮していたと思われるので、上出来と言えるでしょう、はい。
いろいろな意味で容量軽減を希望……システムです。
ゲーム自体がADVということで、例の如く基本的な機能に関しての不満はありませんでした。
CGモード完備、イベント回想有り、バックログ等も最低限完備されていましたし、至って及第点の内容だったと思われます。バグに
関しても特に引っかかった部分が無かったのは好印象ですね。
強いて言えば特筆すべき点がないシステムとも言えますが、各種演出効果がそれを補って余りあるインパクトを醸し出しているため、
実際は相当こだわりがあるシステムになっていたと思われます。技術的にも結構面白かったですし、このあたりは上手いなあ、と。
で、その本作において中枢を占めていたのが、先に散々述べたVENUSystemですが、このシステムに関しては要所で驚きを受けた
反面、ゲームイメージの崩壊やマシンパワーを過度に要求するなどの不具合を生じていた部分もあり、試みとしては一長一短。
と言うか、実際問題として、本作の内容に合っていないんですよ、このVENUSystem.
特に違和感があったのはキャラの表情変化。例えば本作が全面ギャグ、もしくはコメディ中心に進むのであればこの演出は全く
問題ありませんし、逆に演出効果として絶大な効果を発揮したと思われます。ところが本作は根底がガチガチのシリアス。先に進む
につれ物語がシリアスな方向になっていく際に、あの喧しい演出(表情)は邪魔以外の何者でもないんですよ。
……システム自体は素晴らしくても、使いどころを著しく間違っている気がしてなりませんでした。
表面上のキャラからはそれなりに魅力を感じただけに、いろいろな意味で損をしている印象を受けたのは残念だったかなあ、と。
今後、このシステムが改良されるとすれば、一度ALLコメディ調な雰囲気のゲームを出して欲しいと切に願うところです、はい。
さて、ここも密かに注目……音楽です。
音楽担当は知る人ぞ知るOdiakeSさん。古くから名前を存じ上げていたこともあり、私個人、非常に好きな作曲家さんでもあります。
まあ正直なところ、圧倒的な完成度を誇っているとは言い難いのですが、担当したゲーム内で最低一曲は私的に凄く気に入る曲が
あるんですよね。俗に言うハズレが無いというヤツですが、本作も例に漏れず、要所で良質な音楽を聴くことが出来ました。また、特に
上手いのはvocal関連ですね。どの曲もいろいろな意味で印象深く聴き応えのある曲ばかりで、非常に堪能させていただきました。
ただ、今回引っかかったのは後半部分に流れるリアルクラシック系の音楽。例を挙げればアリアやエリーゼなどですが、これはちょっと
反則じゃないかな、と。そもそも私の概念上、独自のゲームで他者の曲に著しく依存するのは間違いだと思っています。まして、一番の
見せ場である肝心な部分の音楽を実際のクラシックに頼ったと言うのは、例え作曲者にそういう意図が無かった(ライターの意向という
考えもあるし)にせよ、納得できません。
そういう風に似せた曲(アレンジ)を流すのであればさほど問題ないのですが、そのまま持ってくるというのは、例え演出としては
秀でていても、評価は出来ません。と言うより、この手法をやってしまうとエロゲ音楽自体の意義が無くなりますし……。
あと、キャラのvoiceに関しては……悪くはなかったのですが、要所で台詞の違和感を感じることがありました。
実際、いまいち真剣味に欠けるような印象が強く、最後まで「演技」しているという印象が残ってしまったのは残念でしたね。
まあ、ああだこうだと苦言中心になってしまいましたが、終わってみれば決して評価は低くありません。微妙に救われないながらも、
ひとつの物語としてはしっかりと完結していましたし、なにより私自身、道中はなかなかに楽しく遊んでいました。事実、先を読みたいと
思わせるだけの魅力があったことは確かです。……先に進むにつれ、だんだんヘコんでいったりもしましたが(苦笑)。
しかし、それだけに「勿体ない」という印象が強いんですよ。素人目にも「ここをこうすればもっと良かったのに……」という点が次々と
浮かんでくるというのは、レビューを書く立場にとってはある意味で有り難い反面、隙だらけの内容とも受け取れてしまう訳で……。
さて結論です。
小綺麗にまとまった物語を読みたい人や、重い(痛い)展開に嫌悪感を抱かない人、そして大野氏のファン(もしくは絵に抵抗が
ない人)であれば本作を購入しても問題ないと思われます。逆に、過度の萌え要素を期待する人や、上記の要素に合わない人は、
特にお薦めするゲームではありません。
最初に述べたように、私自身は還元買いで購入したので特に強い思い入れがあった訳ではありません。
ただ、それでも相応に楽しめたというのが、ここで私が出せる最大限の評価ですね。
さて、今回はこの辺で筆を置かせて貰います。
縁があれば、次のレビューでお会いしましょう(^^)/〜
OS=日本語版Windows95/98/Me/2000が動作する環境
CPU=Pentium233MHz(推奨Pentium266MHz)以上
メモリ=空き48MB(推奨96MB)以上
HDD=空き容量600MB(推奨1.1GB)以上
解像度=640×480:ハイカラ−表示(推奨フルカラー)が可能であること
CD−ROM=4倍速(推奨8倍速)以上
音源=CD-DA、PCM
DirectX=Ver5以降
「原画:大野哲也」
「シナリオ:和泉時彦」
「音楽:OdiakeS」
「音声:有り(主人公以外全て) アニメ:一部有り(各種演出効果、口パク) 」
「価格:9800円(限定版)」
「初回特典:有り(ペンダント、音楽CD) 」
「年齢制限:18禁」
「メディア:CD、DVD」