★★★『お姉ちゃんの3乗』★★★
はじめに注意事項です。このレビュー中には表現の都合上、ゲーム内容に関してのネタバレなどが含まれている
可能性があります。ゲームをプレイ中、及び未プレイの方は、ゲームを最低一度は攻略(エンディングまで到達) した
後で、このレビューを読むことをお薦めします(勿論、未プレイの方でも大丈夫なよう、ネタバレ的要素は極力排除
しているつもりですが、排除が万全とは言えません)。以上の件、閲覧前に何卒ご理解ご了承下さい。
●− Review 序章 −●
新鋭ライターさんの2作目と言うのは良くも悪くも真価が問われるものだけど……。
近年稀にみる冷夏に思わず唸っていた7月の下旬。私は違反切符のショック療法がてら、かなり強引な手法で夏気分を満喫しつつ、
本作「お姉ちゃんの3乗」を購入するため、外回りの合間に時間を作り、そのまま某家電販売店へと足を運びました。
……まあ、外回りの最中にエロゲを買いに行くのもどうかと思いますが(苦笑)。 <注:健全な社会人は真似をしないように
さて、折しもこの日は中堅メーカーさんのソフトラッシュ。魅力的なタイトルが多数取りそろえられていた新作コーナーですが、私が
今回(今日)の本命に選んだ作品は、どちらかと言えばマイナーと言って差し支えないメーカーさんの作品でした。
で、その心は、と言うと……珍しいことにライターさんのネームによるデフォ買いだったりします。元々私はギャグゲーや不条理ゲー
を好む傾向が強いのですが、本作のシナリオ担当はそんな私が贔屓にしている御方。特に処女作を遊んだ際のインパクトは強烈な
ものがありましたし、何より我が道を行きすぎているキャラ達が繰り出すハイテンションな展開は非常に秀逸でした。
とどのつまり、過去に良い思いをさせて頂いた方の新作を見過ごす訳にはいきません……と言うことで本作のデフォ買いが確定。
お世辞にも山積みとは言えない状態の本作を躊躇うことなく購入し、再び仕事に戻ったのですが……閑話休題。
ん〜、相変わらず呆れるぐらい吹っ飛びすぎ……。
……あ、いや。勿論良い意味で、ですが。
ジャンルそのものが成立していたかは微妙なものの、何から何まで吹っ飛んでいるコメディ全開なシナリオ&常にハイテンションの
状態で進むゲーム展開は実に見事でした。まあ、逆に言えばそれだけが売りとも言えるのですが、細かな難点や欠点を補って余り
ある「勢い」自体は高く評価したいです。実際、何かひとつでも特筆する要素があれば他の欠点もさほど気にならなくなりますし……。
特に自分の場合「ゲーム=エンタティメント」と言う理念が頭の中にあるので、その点に関しても本作は非常に秀逸な作品でした。
考える前に笑う、面白いものは単純に面白いと実感できるゲームはなかなか貴重な存在なんですよ、本当に。
とは言え、客観的に見ると多少強引とも言えるシナリオ運びや根本的に破綻している展開など、整合性に関しては首を傾げる部分
もあり、お世辞にも万人向けとは言い難い作品になっていることも事実です。諄いようですが良くも悪くも全ての要素をノリと勢いでまと
めているので、人によって合う合わないが明確に分かれる作品とも言えるのですが……。
さて、それでは個々の見解に行ってみましょう。
3人の姉に囲まれて……ゲーム性です。
ゲームジャンルは恋愛ADV。時代設定は一応現代ですが、分裂したり妖精が出てきたり生えてきたり復活したりするので、
基本的に何でもありと考えた方が無難&深く考えない方が楽しめます。ちなみに1プレイは4時間程度で難易度はかなり低めでした。
さて、ゲーム自体は恋愛ゲー……メインの要素は最近少しブームになってきた姉ゲー路線(但し本作は甘やかされゲー)です。
個人的にはテキスト自体のノリを純粋に楽しむことを前提に考えていたので、普段なら喜ぶであろう姉ゲと言うジャンル自体は
あまり真剣に考えていなかったのですが、その姉自体はこれ以上ないぐらい主人公に対して溺愛&ダダ甘要素な展開を見せてくれた
ので、ジャンル自体も相応に成立していたと思われます。……まあ、姉達の溺愛行動が極端すぎていた感もありましたが。
で、矢張り特筆すべきは兎に角ハイテンション&無茶苦茶な展開と、それを支えるヒロイン達。事実、個性豊かなキャラ達は実に
魅力的でしたし、展開もギャグ(破綻かも……)要素満載。特に各種選択肢は半分近くが支離滅裂ですが、思わず全ての選択肢を
選びたくなる勢いを持たせている点は上手いですね。何より、一見無茶な選択肢を選んでも、それに逆らわずその通りの行動を
取る主人公その他は素晴らしすぎです(苦笑)。ただ、総合的に見るとサブキャラ印象度の方が高かったのは……ご愛敬、ですね。
とは言え、良くも悪くもこの展開に付いていけなければ全然面白くない作品なので、矢張り遊び手を選ぶことは請け合い。
また、笑いに関しても全体的に下品な笑いが多かったのは微妙ですね。勿論それを含めて面白いのですが、あまりにも度を過ぎた
下ネタは流石に読んでいて引きますし、事実私も一部の展開に関しては思いっきり引きました。
更に、いろいろな面で大問題なのがえちシーン。これがまたどういう訳か(厳密に言うとライターさんの作風ですが)素晴らしく
吹っ飛んでいます。本作は一応普通の純愛ゲーですが、えちシーンに突入した瞬間から終了まではパラレルワールドとして考えたく
なるぐらい、それまでのゲーム内容と全然一致しない展開を垣間見ることが出来ます(苦笑)。
流石にあそこまで行くとギャグ&ウケ狙い以前の問題だと思われるのですが……この点に関しては改善を希望したいですね。はい。
ある程度まとまっていれば良いや……ストーリーです。
主人公、有坂未空は行動こそ奇抜な点を除けば至って普通の大学生。そんな彼は昔から姉弟同様に育ってきた従姉である七夏と
共に一つ屋根の下で暮らしつつ、日々ダダ甘とも言える過保護な溺愛を受けていた。
が、そんなある日、謎の時空湾曲が発生し、それに巻き込まれた七夏は容姿も性格も、更には名前までも違う3人のお姉ちゃんに
分裂してしまう。そして挙げ句の果てに、時空を調査するために異世界からやってきた妖精までも加わり、事態は一層混乱の渦中に。
かくして、主人公とお姉ちゃん達(当者比3倍増)との不思議な同居生活が幕を開ける……と言う設定で物語は幕を開けます。
まあ、言うまでも無く開始早々に物語がある程度破綻してしまうので、あまり真っ当な展開を期待してはいけません(苦笑)。
で、メインストーリーは原則コメディ調。一部筋に大好評な竹井ティストは今回も健在なので先程も述べたように遊び手を選ぶ作風
ではありますが、常にハイテンション&全て勢いで押し切る作風は実に痛快。深く考えずとも笑える作りは個人的に高く評価した
いですし、エンタティメントな要素を求める自分にもピッタリでした。この点に関しては竹井氏のテキストセンスが相応に大きいでしょう。
また、ネックとも言える後半部分の切り替えに関しても若干吹っ飛んではいたものの、それなりに納得の行く結末になっていたと
思われます。多少強引なシナリオ運び方ながらも締めるところはしっかり締めていたので、本格志向さえ持たなければ極端に不満を
感じることはありませんでした。贅沢を言えば最初から最後までコメディ全快で突っ走ってほしかったなあ、と言う印象もありましたが。
ただ、矢張りというか案の定というか、肝心の見せ場である終盤に向けた切り替えの唐突感が否めなかったのも事実。極端にシリ
アスが強くなると言う訳では無いのですが、一寸無理をしている展開に見えてしまったのも事実。全体的なシナリオ自体は終わってみ
るとそれなりにまとまっていたのですが、要所で首を傾げながらシナリオを進めていた感が最後の最後まで残ってしまいました。
……元々ストーリーを重視している作品ではありませんし、先程も述べたように中途半端なシリアスも正直不要だとは思いますが、
それを組み込むのであれば、極力自然な流れに沿って物語を進めて欲しかったなあ、と言うのが本音ですね、ええ。
あ、あと……散々笑った立場で言うのも何ですが、某キャラに関しては久しぶりに御法度的なコメディを垣間見た気分でした。
それ自体は楽しかった&良くも悪くも強烈すぎる個性を放っていたのですが……ま、こう言うのもゲームならでは、カナ。
さて、ゲームの華、CGです。
CG担当はつくし氏。若干堅さが目立つ……強いて言えば少し古めの原画でしたが、デフォルメの豊かな表情も相まってなかなか
味のあるCGになっていたと思われます。一部フルCGの構図に関しては「?」な部分もあったものの、CG自体は平均程度の評価を出
しても良いと思われますね。あ、但し某キャラの人外ヘアはご愛敬と言うことで。
ただ実際のところ、お世辞にも萌え系(可愛い系)CGとは言い難い為、単純に可愛い云々と言う概念から外れてしまうのは微妙。
テキスト重視の姿勢で遊ぶぶんにはさほど問題ありませんが、単体の魅力……CG買いをさせるような魅力に乏しかったのは
勿体ないなあ、と思います。これだけ良質なゲームなので、CGが更に良ければより一層の評価になったと思われますし。
ま、元来エロゲはCGを目当てに購入するのが基本(と言うか原点)なので、その点を考慮すると相対的な評価は低いですね。
何より、矢張り単純にCGとして見た際に可愛さや魅力を感じなかったのは微妙でした。
デフォルメ系の表情はなかなかに味わいがありましたが、それ+CG単体での魅力や可愛さがあればなお良かったかな、と。
あ、あと……例の如く姉には見えないロリ系キャラが混じっていたのもお約束。つい最近も似たようなゲームを遊んだ記憶が……。
終端に達しなければ良し……システムです。
ADVとしての基本的なシステムは大体完備されており、大きな不満はありませんでした。ただ、あくまでも必要最低限の機能に
留まっている傾向があったので、もう少し痒いところに手が届く仕様を望みたかったところですが、ゲーム自体は取り立ててバグもなく
快適に進行することが出来たので、安定性と言う面では特に問題無いと言って良いでしょう。
ちなみに本作は基本システムにnscriptを採用しています。安定性にはそこそこ定評があるシステムですし、元々ADVやNOV向け
のシステムなのでプレイヤー側としても扱いやすかったことは間違い有りませんね。
ただ、いかんせん機能が最低限かつ貧弱すぎ。これはnscript云々と言うより組み立てる側の問題ですが、いくら安定していても
貧弱では困ります。……まあ元々多機能なシステムを要求する作品ではありませんが、せめてボリューム調整やエフェクトカットなど
はシステム自体に実装して欲しかったですね。特にエフェクトカットは迅速な進行という面で必要だったと思われますし。
あと……バグというほどでもありませんが、私の環境下ではフェードアウト演出後にCD-DAの読み込みが極端に遅くなる現象が
発生しました。一応修正パッチらしき物は出ているので、念のため確認しておくのが良いかも知れません、はい。
何気にCD-DA採用のゲームは久しぶりかも……音楽です。
そうですね……音楽自体はそつなくまとまっていたものの、全体的に軽い曲が多い印象を受けました。
音楽の場面融合や曲の質はなかなか良好で、単純に聞くぶんには不満もなかったのですが、曲自体に重みが無く、ただ単に音楽を
鳴らしていると言う印象が強かったのは勿体なかったですね。音色に関しても妙にGMティストな雰囲気でしたし。
後は……強いて言うほどでもありませんが、ボケツッコミで多用されていた曲は個人的に微妙な評価かな、と。テンポの良い音楽と
捉えるか不協和音と捉えるかで評価が分かれると思われますが、私はどちらかと言えば後者寄りでした。
まあ、元々がライト系のノリを持つゲームなので、音楽自体の方向性としては決して間違っていないと思われますが……。
ちなみに本作はC.V.未搭載な仕様ですが、このライターさんのテキストは良くも悪くもvoiceを当てるのに向かないタイプの文体なの
で、個人的にはvoice無しの仕様で良かったと思います。まあ、仮に搭載されていればそれなりに面白かったんですけど、ね。
全てを勢いで押し切っているテキストが合う合わないで評価が割れる作品ではありますが……。
ハイテンションなノリに付いていける人にとっては間違いなく楽しめる……秀作評価を出せる作品です。
コメディ及びエンタティメントとしては完全に確立されていますし、強引ながらも要所は締めているので、深く考えずに楽しむと言う
面では申し分のない作品だと思われます。元々ギャグゲーを好む傾向が強い立場としては非常に堪能させていただきました。
ただし客観的に見ると評価が分かれる……まあ本作の購入層は限定されているので特に問題無いかも知れませんが(苦笑)。
……さて、結論です。
まずライターさん買いを考えている人は全く問題有りません。そのまま突撃しても大丈夫です。また、コメディ系のゲームが好き
な人や、吹っ飛んだ設定やキャラ達が登場するゲームを遊びたい人にも間違いなくお勧めできる作品ですね。
ただ、独特なテンションで進行するゲームなので、不条理系のノリに付いていけない人は回避した方が賢明です。またシナリオの
整合性に関しても序盤早々に崩壊するので、シナリオ重視のエロゲを求める人には論外の作品だと思われます。あと、要所の笑いで
妙に現実味のある下ネタが取り入れられているので、極端な下ネタが嫌いな人も購入を回避するべきでしょう。
……ま、あえて前作と比較するのであれば、若干勢いが低下しているという感は否めません。但し本作の設定である「姉」キャラ
をメインに押し出している仕様上、笑いの幅や展開が多少制限されてしまった部分もあると思われます。実際、全体的にはむしろより
一層えげつなくなった(注:誉め言葉)とも言えますし……何より「???」はいろいろな意味で反則でした。
さて、今回はこのあたりで筆を置かせて貰います。
縁があれば、次のレビューでお会いしましょう(^^)/〜
OS=日本語版Windows98/Me/2000/XPが動作する環境
CPU=PentiumII-233MHz(推奨PentiumII-266MHz)以上
メモリ=不明(マニュアル未記載)
HDD=空き容量300MB以上
解像度=800×600:フルカラー表示が可能であること
CD−ROM=実装必須
音源=CD-DA
DirectX=Ver8.0a以降
「原画:つくし」
「シナリオ:竹井10日」
「音楽:らいと」
「音声:無し アニメ:無し 」
「発売日:2003年07月25日」
「価格:8800円」
「初回特典:有り(まな板)」
「年齢制限:18禁」
「メディア:CD」
注:2003/01より点数形式を変更しました(50→100点満点)