★★★『 家 族 計 画 』★★★
はじめに注意事項です。このレビュー中には表現の都合上、どうしてもゲーム内容のネタバレなどが含まれている
可能性があります。ゲームをプレイ中、及び未プレイの方は、ゲームを最低一度は攻略(エンディングまで到達) した
後で、このレビューを読むことをお薦めします(勿論、未プレイの方でも大丈夫なよう、ネタバレ的要素は極力排除
しているつもりですが……)。……以上の件、何卒ご理解ご了承下さいませ。
●− Review 序章 −●
家族……か。改めて考えるには丁度良いテーマかも知れない、な。
自分の情けなさと不甲斐なさで半ば自棄になっていた2001年11月上旬。憂さ晴らしを兼ねて打ったスロットで予定外の勝利を収め、
資金的に若干の余裕が出来た私は、殆ど気が乗らない状態ながらも過剰分のスロット還元を兼ねて本作「家族計画」を購入しました。
さて、この「家族計画」。元々購入予定の枠には入っていなかったソフトでしたが、家族を題材にしたという物語に興味があったことや、
一部友達からの薦めに加え、本作のライターさんの知名度も高いということで、それなりに注目していたゲームであることは事実でした。
まあ、今(11月)は兎も角、いつかは購入する機会があるかな……と考えていた矢先、ちょっとした仕事絡みの一件で精神的にボロ
ボロになり、悩み抜いているうちに自分の精神状態は崩壊寸前に陥ってしまったのです。
その件は半ば強引に解決したのですが、矢張り精神状態は芳しくなく、完璧に鬱モードになっていた矢先、本作のことを思い出し、
改めてそのテーマと内容を考えてみると、今の私にはピッタリとも言えるゲームだったのです。
最近の荒んだご時世において、家族という言葉や繋がりがどれほどのウェイトを占めているのかはわかりませんが、幸いにも自分は
変則的ながらも家族の暖かさに触れる機会が多かったこともあり、家族という言葉、そして家族は嫌いではありません、むしろ好きです。
そんなわけで、ゲーム逃避は程々に……と自虐的な笑いを浮かべつつ本作を購入したのですが……閑話休題。
あ〜、微妙に癒し系ですね、これは。
まずなにより「やられたなー」と言うのが第一印象でした。
家族という難しい題材を元に、本来の家族と言うものを知らない主人公やヒロイン達が、あれこれ試行錯誤しながら家族を作り、
様々な葛藤やトラブルに見舞われながらも、最終的にはそれが家族の絆となっていく……。この演出を隙無く魅せていたライターさんは
相当な腕の持ち主ですね。
根底部分が重い為、シナリオ展開や見せ場では結構ヘコむ箇所もありましたが、その行動は家族を知らない登場人物達にとっては
ある意味当たり前のこと。それらの事件を乗り越えて行く課程はしっかり書かれていましたし、なにより本作の登場人物が織りなす物語
には、家族以上の家族の姿を垣間見た気がします。
家族の暖かさを少なからず知っている私が、こういう家族があったら良いよなあ……と思ってしまった時点で、本作の評価は決まって
しまったのかも知れません。本当に家族の暖かさが伝わってくるようなゲームでしたね。事実、良い点悪い点全てを含め、上質な物語を
形成していたと思われます。
もっとも、その反面的な代償は大きく、エロゲとしては根本的な間違いが伴っていたことも事実なのですが……。
さて、それでは個々の見解に行ってみましょう。
さて、家族というテーマを設定し、それを如何にして演出していくのか……ゲーム性関連です。
ゲームジャンルはノベルADVに分類されていますが、感覚的には純粋なNOVに近いかも知れません。ちなみに1プレイ時間は10時間
程度と、この手のゲームとしてはボリュームがあり、若干長めとなっています。どちらかと言えば時間のある人向けですね。
ただ、確かに物語自体は長めでしたが、文章は読みやすい上にそのセンスも良く、要所での笑いもありました。特にひとつひとつの
イベントや会話は本当に丁寧に書かれていて、多少ダレることはあっても苦痛を感じるようなことは無かったですね。じっくりと文章を読み
たい人にとっては申し分のない内容だと思われます。
で、肝心のゲーム部分に関してですが、これはタイトルに偽り無しの「家族」をテーマとした物語です。ゲーム展開を平たく言えば
連続もののTVドラマみたいな感じです(苦笑)。
家族というものを知らない主人公たちが寄せ集めで作った不器用な擬似家族がドタバタした日常を過ごしつつ様々な事件に直面。
そして、最終的にはそれを克服していく課程が現実味のある展開と相まって淡々と、かつ強烈に演出されていたと思われます。
何より特筆すべき点は矢張りこのリアリティでしょう。本来エロゲにこのようなリアル味を取り入れるのは疑問が残るのですが、演出を
はじめ、全ての要因が高いレヴェルで形成され、結果として物語が非常に高い完成度を持っていたことは間違いありません。
何というか……エロゲとして見た場合、文句はあるんですけど、ね。それを押し込めてしまうぐらいに重みと深みのある物語なんですよ。
そして勿論、登場するキャラも魅力的なキャラが多いです。それぞれ重い過去を持った一癖も二癖もあるキャラばかりですが、キャラ
自体の魅力と演出が相まって、非常に良いキャラを演じていたと思われます。
また、良質ゲームのお約束として、男キャラもそれぞれにインパクトがあり、表面上は非常に好印象を持ちました。
ただ……矢張り私にとってこの長さは辛かったです。ダラダラした日常の雰囲気は好きですし、読み応えもありますが、いかんせん
遊ぶ時間が足りません。いくら良質なゲームとは言え、1キャラ終わるのに数日を費やすようなゲームは正直手を付けづらいなあ、と。
それでも、結果的には全キャラを最後まで攻略してしまったことが、本作に対するなによりの評価と言えるんですけど、ね。
さて、ひとつ屋根の下の家族計画を如何なる方法で演出するのか……ストーリーです。
幼い頃に両親と別離し、何をするにも一人で生きてきた主人公。そんな主人公がちょっとしたきっかけで中華系の女の子を保護した
ところから物語は動き出します。バイト先の店長の説得もあり、仕方がなく生活を共に始めた矢先、住んでいるアパートを訳有りで追い
出され、放浪の身になってしまう主人公。しかし、行く先々で訳有りのヒロイン達と出会い、とある一軒家に住み込むことに。
そんな中、謎の男こと寛が寄せ集めの「家族計画」を発案。家族という存在を嫌い、反対する主人公だったものの、強い説得に押し
切られ、渋々ながらもそれを受諾。そして、それぞれの擬似家族物語が始まっていく……と言うのが大まかなストーリーの概要です。
で、そのシナリオですが、展開はほぼ一本道。表面上は要所で軽い笑いを取りながらシナリオが進んで行くコミカルな雰囲気なので、
それほど暗い印象はないものの、実際は非常に真剣かつ重い話になっています。特に目の前の重い現実を的確かつ強烈に書いている
文章には、その展開と事実に対し、驚くと共に、よくもまあこういうシナリオを隙無く書けるものだと感嘆しました。
また、各ヒロインに関しても個別シナリオへの分岐が遅い反面、どのキャラもしっかりとした魅せ場があって良かったです。
確かに遅すぎるとも取れる後半の分岐に関しては疑問が残りますが、個別キャラで云々ではなく、あくまでも「家族」という枠に入れ、
家族の問題として状況を演出していた為だと思われます。勿論、それぞれの結末に関しても非常に納得のいく形でしたし。
しかし、矢張りプレイヤー側としては辛いものがありましたね。なにより次キャラ選択時には本編最初からのプレイとなり、結果、シナ
リオの殆どが既読メッセージスキップで飛ばせて(して)しまう展開になります。ある程度の地点でキャラ分岐を明確に出来るようなポイ
ントを設置するなど、もう少しだけ繰り返しプレイを容易にする配慮が欲しかったところですね。
しかしこのゲーム、諄いようですが結構シュールな展開が多かったです。
それぞれのヒロインが歪んでいる(まあ、因果関係は有りますが)為に起こり得る事態なので、状況と因果関係を真面目に考えさせ
られる反面、ある種の狂気が混ざっているような雰囲気もあり、思わず引いてしまう部分も多々ありました。基本的にハッピーエンドとは
言え、道中の重い展開はある種のリアリティとも相まって、近年流行の鬱ゲーに匹敵する重苦しい印象を受けましたし。
ただ、ぎこちないながらも家族計画を進め、徐々に家族という存在に触れていく主人公。そしてふと気が付くと、自分の中で家族と
いう存在がかけがえのないものになっていく……なんともお約束なシナリオですが、その課程の描写は本当に見事なものでした。事実
最初のうちは、この懐疑的な主人公には全く共感できなかったのですが、主人公が徐々に家族というものを意識して、触れていく課程が
上手く演出されていたことにより、後半はすっかり主人公に感情移入していましたし。
なにより、それぞれの未完成な存在であるキャラを立たせ、家族計画と言う名の下、ひとつ屋根の下の集団生活における
障害や団結を的確かつ強烈なまでに描いている山田氏の文章は本当に秀逸としか言いようがありません。
何より、プレイ後に残る鮮烈な心境は本作ならでは。ゲームとは思えないほどに現実味のある感情移入も相まって、非常に暖かい
気分になれましたね。改めて家族の意義と繋がりの強さを感じさせてくれたゲームでした。
さて、ゲームの華、CGです。
原画担当は福永ユミさん。以前に福永さんの原画でゲームをやったときとは随分絵柄の雰囲気が違う印象を受けましたが、私的には
本作の作風のほうが好きですね。キャラの多彩な表情に加え、CG構図のクオリティも高く、安心して見ることが出来ました。
また、彩色に関しても淡目に塗られていて、こちらもゲームの雰囲気に沿った作風になっていました。ただ、人によっては若干塗りが
薄すぎると感じるかも知れません。綺麗な彩色であることは間違いないのですが。
で、気になった点……まず些細な点からですが、遠い視点から全体像を見るときの絵……例を挙げればクリア後タイトル画面に
登場するような感じのイラストにおけるキャラの描き方にはちょっと違和感がありましたね。顔が崩れているとまでは言わなくても、
淡い彩色に溶け込みすぎた所為か作風がおかしくなっているような印象を受けてしまいました。
あと、本作において致命的だったのがCG枚数。
はっきり言うと少ないです。全体が長い所為で少なく感じる印象もありますが、そう感じるということは矢張り少ないです(苦笑)。
キャラクターごとの見せ場が上手く均等に振り分けられている点は非常に好印象だっただけに、その際におけるイベントCGはもう少し
用意されていても良かったと思われますね。文章メインとは言え、矢張りエロゲは絵も大事ですし……その点は非常に残念でした。
とは言え、それ以外は本当に申し分のない完成度でしたし、十二分にゲームを引き立てていた思われます。はい。
最近やたらと語る部分が少なくなってきた……システム関連です。
ジャンルがADVと言うことでしたが、ADVという枠に対して必要な機能は一通り揃っていたと思われます。カスタマイズ性もありますし、
とりたてて強く不満に思った箇所は無かったです。未読既読スキップ完備。巻き戻し有り、各種速度も良好と、例の如くですが堅実な
作りになっていたと思われます。強いて言えばメッセージの既読機能を使う際、キーボード操作を使うことなくマウスのみで可能なように
して欲しかったぐらいですが、まあ許容範囲。勿論安定性も良好で、初期ロットながらプレイしていてバグには全く遭遇しませんでした。
当たり前と言えば当たり前ですが、バグが無いというのは本当に有り難いものです。なんだかんだでNETを所有していない方々も
まだ多数いる現状ですからね。安定動作に関しては高く評価したいです。
後は……若干余談になりますが、セーブの際に挿入されるコメントはなかなかに味がありましたね。コメントだけで思わず笑って
しまったものもあり、セーブするごとにコメントを楽しませて貰いました。こういった細かな部分の配慮や演出は非常に好印象でした。
はい、システムに関しては以上です。
さてさて、音楽ですが……。
そうですね、充分な内容だったと思われます。ゲームの穏やかな雰囲気に比例した曲が多く、しっとりと情緒のある曲を聴くことが
出来たと言っても差し支えないでしょう。演出補助としても最低限度+αの効果は発揮されていましたし。
ただ、全体的に曲のレヴェルは高かったものの、印象に残ったのは実質1〜2曲程度ですね。これは同じような曲調が多かった
ことで曲ごとの差別化が難しかった点もあるとは思われますが。
しかし、その中で唯一例外だったのがオープニングの曲。これに関しては手放しで誉めて良いですね。思わず引き込まれそうな
ムービーとも相まって、非常に良質な演出になっていたと思われます。
あと、勿体ないと思ったのは、本作にvoiceが無かったことですね。確かに長さが長さなのでしょうがないとは思われますが、あったら
あったで更に魅力的になったことは間違いなかっただけに、残念だという感は拭えませんでした。
いや、凄く良いゲームを遊んだと思います。
ドラマ的な演出や展開、そしてなによりその課程と結末は、エロゲという枠を越えて感動することが出来ました。
ただ、本来エロゲにおいてエロゲという枠を越えて良いものかと聞かれると、私は「NO」という結論に達するのがお約束ですね。
なにより致命的だったのは、本来エロゲのエロゲたる所以であるえちシーンが皆無だったことです。正直な話、いくらシナリオが秀逸で
あってもエロの存在を感じなければ、私的には本作を上手く評価出来ないですし、したくないんですよね。
ゲーム、そして物語としての評価は間違いなく高いのですが、反面エロゲとしては著しく間違っているなあ、と。
さて、結論です。
物語という面では申し分ありません。若干鬱ゲー風味も混じっていますが、じっくりと味のある物語を読みたい人には文句無しに
お薦めできる内容であると共に、その完成されたシナリオは一度プレイして欲しいところでもあります。
反面、エロゲは何が何でもエロ! という人や、ゲームの世界に現実を求めたくない人、時間的に余裕がない人にはお薦め
しかねるソフトですね。ちなみに、今の私には1プレイ10時間の壁があまりにもキツかったことを付け加えておきます。
ただ、この結論はどうであれ、本作に興味を持った人であれば一度プレイしてみても全く損は無いと思われます。
趣味に合う合わないはありますが、プレイ後には必ず何かしら得るもの、自分を見つめ直すものがあるゲームだと私は感じました。
さて、今回はこの辺で筆を置かせて貰います。
縁があれば、次のレビューでお会いしましょう(^^)/〜
OS=日本語版Windows98/Me/2000が動作する環境
CPU=MMX-Pentium166MHz(推奨PentiumII-233MHz)以上
メモリ=32MB(推奨64MB)以上
HDD=空き容量500MB以上
解像度=640×480:ハイカラ−表示が可能であること(AGP等の高速接続ボード推奨)
CD−ROM=8倍速(推奨12倍速)以上
音源=CD-DA、PCM(効果音)
DirectX=使用
「原画:福永ユミ」
「シナリオ:山田一」
「音楽:中澤伴行(I've)、WATA(I've)」
「音声:無し アニメ:無し」
「価格:8800円」
「初回特典:無し」
「年齢制限:18禁」
「メディア:CD」