★★★『顔のない月』★★★
はじめに注意事項です。このレビュー中には、表現の都合上、どうしてもゲーム内容のネタバレなどが含まれている
可能性があります。ゲームをプレイ中、及び未プレイの方は、ゲームを最低一度は攻略(エンディングまで到達) した
後で、このレビューを読むことをお薦めします(勿論、未プレイの方でも大丈夫なよう、ネタバレ的要素は極力排除
しているつもりですが……)。……以上の件、何卒ご理解ご了承下さい。
●− Review 序章 −●
しかし、発売まで散々騒がせてくれましたなあ……。
冬コミが間近に迫った12月中旬。私は残りの仕事に追われつつ、「顔のない月」の発売日を心待ちにしていました。
……思い起こせば、一筋縄ではいかないゲームでした。元々「顔のない月」は夏コミ以前の発売予定でした。しかし、
度重なる延期の繰り返しに合い、私自身もその都度、計画変更や購入テキストの修正を余儀なくされてきました。
この調子では年内は無理か……と思っていた矢先、メーカーサイドからマスターアップの報告が上がってきたのです。
さて、発売前からあちこちを賑わせていた本作。普通のゲームであれば、ここまで騒ぐこともなかったのでしょうが、
本作は良くも悪くも原画人が大御所のCARNELIANさん。
しかも、これまで色々と弊害を受けてきた外注シナリオを切り、ほとんどが自社制作ということを押し出していたため、氏
自体の実力を見ることが出来る良い機会と考えていたユーザーが多かったのは紛れもない事実だったこともあり、話題や
前人気という面では「AIR」に次ぐ勢いを持つまでになっていったのです。
とまあ、このように内外から過度の期待と重圧を受けつつ発売された訳ですが……閑話休題。
む、無駄に長すぎる……。
長さに見合うだけの展開があれば良かったんだけどなあ……。
さて、肝心のゲーム自体ですが、深く突っ込まないぶんには十分に楽しめる内容でした。全編を通して幻想的な雰囲気や
謎めいた展開など、プレイヤーを引き込ませる要素も揃っており、個人的には好みの部類に入りました。
しかし、原画人の名前が大きい以上、どうしてもそれに見合ったものを求めてしまうのが人の性。何かがひとつ飛び出ている
というのは面白みに欠けるので、全てを高いところで見たくなってしまうのも事実なんですよね……。
結果、引き込ませる要素が揃っていたにも関わらず、それを魅せる要素があまりにも下手だった所為で、実際の評価が低く
感じてしまったのは事実ですし、シナリオ単体で見た場合だと、全体を通してかなり冗長な展開が多く、ダレ気味にゲームを
進めてしまうことが多かったのは辛かったです。
ただ、肝心の絵に関しては流石でした。視覚的な質感もあり非常に良い出来で、十分に満足のいく物でした。一部キャラに
関しては表面と内面のギャップの差……というか、期待していた展開との相違に泣いた箇所も多々ありましたが……。
それでは、個々の見解を語っていくとしましょう。
さて、最初から最後まで理解に苦しんだ物語でしたが……。
物語は基本的にADV形式で進んでいきます。本線は神社関係の話が絡む和風ティストなのですが、実際の行動は洋館っぽい
屋敷の中だったりと、いまいち世界観の把握に悩む部分もありましたが、個々の雰囲気は上手く出ていたと思われます。しかし、
ゲームの内容に関しては、主人公の立場の所為もありますが、常に受け身に回っているため、ある程度進めないと話が見えて
こないのは勿体ないですね。
ただ、全体を通して醸し出されている謎めいた雰囲気は非常に秀逸でした。全ての謎が解けた解けないは別として、
プレイヤーを物語に引き込むという面では上手く作用していましたと思われます。
肝心の内容に関してはミステリーというのか……サスペンス系のノリと言いましょうか……。少なくとも、明るい
シナリオではないですね。推理ゲーム的な要素はありませんが、雰囲気としてはそれに近いものがありました。
また、一部のキャラクターに関しては表面上はイラストとも相まって魅力的なのですが、設定や外見を信じて進めていくと、
進行していくうちにどんどんと妙な方向に豹変していき、終わってみればあまり愛着が沸かないのは勿体ないですね。
個人的には脇役キャラは凝った裏設定よりも、そのままの性格でダイレクトに進めて欲しかったところでした。
そんななか、気に入ったのはえっちシーンのシチュエーション&バリエーションでした。これでもと言わんばかりに
豊富に揃えてあり、いろいろと堪能させていただきました。
これだけ揃っていれば、自分の趣味に合ったシチュエーションがあるのではないでしょうか(苦笑)。
あと、難易度に関してはエンディングの多さに加え、後半部分はちょっとした選択肢がBADに流れたりと、かなり高めに
なっています。1プレイ時間も長いので、素直に攻略情報を使用した方が無難でしょう。
さて、冗長=ダレるとは限らないハズ……なストーリーです。
全て終わってみればいい感じ……でしたが、それまでの課程の長さや各種結末を考えると、あまりにも釈然としなかった
というのが本音です。
先程も述べたように、物語は少なからず推理&ミステリー的な要素が入るため、読んで謎を解いていく(わかっていく)タイプに
入ります。ただ、それにしてはあまりにも本線とは無用な部分が多く、肝心の本筋……ゲーム後半部分に入るまでに飽きて
しまいました。前半部分でもう少しプレイヤーに情報を与えてくれると良かったのですが。
後半に入るとようやくシナリオが動き出しますが、前半のペースを考えると急転直下すぎる印象が大きいですし……。
特に最後の選択肢が終わってからが地味に長く、それまでは一体……という気分になるのはマイナス要因ですね。
しかも皮肉なことに、そこまで行くとようやくシナリオに盛り上がりが出てくるため、逆に言えばそれ以外……序盤から
中盤はかなり冗長に進行している部分が多いことが露見してしまうのはなんとも……。
で、肝心のエンディングに関しても知識が足りないせいか、絶対的情報量が不足しているのか、とにかくわからないままに
終わることが多すぎです。特にトゥルー系ルートに入るには、各キャラメインのシナリオを終わらせないといけないのですが、
各キャラのシナリオを見ても断片的な理解しか入ってこないため、いざトゥルーシナリオに入ってもいまいち釈然としない部分や
疑問が多かったです。
それでも全てを終わらせるとなんとか全体像が見えてくるのですが、事前のシナリオがあまりにも不可解すぎて、結局のところ
釈然としないままに終わってしまうのは勿体ないですね。
そもそも、トゥルーに入るためには他のルートを全てクリアするという必然性を持たせながらも、他のルートが独立傾向にある
ため、全てが終わっても謎が解明されないという矛盾が生じてしまうのは、最初からルートを出さない意味が無い気もしました。
また、その割にはキャラごとのEDも、トゥルーへの布石を持たせようとしている所為か、いまいち納得のいかないEDに
感じることが多かったですね。キャラが魅力的なぶん、それを十二分に活かしたエンディングを見たかったところです。
さて、語るにもあらず……なのかもしれませんが、CGです。
極論から言えば申し分ないでしょう。少なくとも業界ではトップクラスの原画人ですし、それに見合っただけの原画を
魅せていることは間違い有りません。また背景CGに関しても細かく描かれていて綺麗でした。光の加減なども良かったですね。
というわけで、ここからはアラ探しでも……(苦笑)。
ただ、CGに関してはちょっと凝りすぎですね。勿論綺麗なことには変わりないのですが、あまりにこだわりすぎているCGも
見受けられました。個人的には椿の花が画面中を舞っているCGはかなり苦笑いしましたね。
あり得ない構図の演出を芸術として見るか邪魔と見るかによっても評価は別れますが、普通に描いても十分綺麗ですし、
個人的には気を削がれるほどの過剰な画面演出はいらない気がしました。
また、彩色に関しても淡い塗りが災いし、一部CGに関しては色が薄く感じてしまい、ベタ塗りないし手抜きに見える部分も
あったのは勿体ないですね。
……あと、余談ですが、一部のフルCGでテキストウィンドウに顔がかかるのは、かなりマイナス要因でした。
表情が隠れるというのは、純粋にCGとして見る場合も、状況的観点から見る場合でも致命的な欠陥だと思われるのですが。
とはいえ、普通に見る分には本当に申し分ないと言えることは確かなんですけどね……はい。
はい、システム関連です。
……重いです。機能云々以前の問題です。確かにこちらの環境の悪さも認めますが、それを差し引いても辛かったですね。
何をするにもウェイトが掛かり、正直セーブを開くのでさえ一苦労です。しかも油断していると強制終了するし……(苦笑)。
つくづく疑問なのですが、何故にテキストタイプのADVでここまで重いシステムになるのでしょうかねえ。
また、重さは別と考えた場合でも、演出面に凝っているだけで実用性に欠ける部分が多いなど(演出があるぶんマシです
が)システム面はお世辞にも使い勝手が良いとは言えませんでした。例えば、ゲーム画面からの終了が出来ないなど、
タイトルに戻るのにも一苦労するようでは操作のたびに余計なことでストレスが溜まってしまいますし……。このあたり、
もう少し気を遣って欲しかったところです。
あと、特に気になったのがマニュアルの誤字脱字関連でした。記載ミスをはじめ、一回ぐらい見直せば……と突っ込みを
入れたくなるほどの内容不一致には笑うしかありませんでした。本編に関しても、パッチを当てたにも関わらず誤字脱字が
目立ったのは痛かったです。特に盛り上がっているシーンでの誤字脱字は気が削がれるので嫌ですね。
……また、先程も少し述べましたが、内面のシステム自体も芳しくなく、全体的に不安定でした。私的には長時間プレイ&
Voiceを使用していると環境が不安定になりやすい印象を受けましたね。このあたり、次回以降で改善を望みたいところです。
さて、ゲームを盛り上げるのには欠かせない音楽ですが……。
まず音楽の出来以上に光ったのは、細かな効果音の演出でした。季節、演出に関しては時期柄どうしてもズレを感じる
部分もありましたが、逆に言えば、ズレを感じてしまったぐらいに、個々の場面や季節感を盛り上げる演出がしっかりしていたと
いうことですね。
で、肝心の音楽に関してもそれ相応の出来でした。謎めいた雰囲気や穏やかな日常生活など、その場その場の状況に
しっかりとあった曲が多く、場面演出という面では十分な音楽でした。
ただ……そこまでであって、そこから先の評価は出せませんね。なんというか、まとまりが良すぎて平凡なんですよね。
もう一歩印象に残る曲……音楽自体の主張が欲しかったところです。個人的には一応神社が舞台ということもあるので、
もう少し和風系の音色を前面に活かした曲があっても良かったと思いました。
また、Voiceは発売前の慌ただしい経緯を見る限り、正直付け焼き刃的に付加した印象を持っていましたが、実際聴いて
みると以外に違和感が無く、良い方向に動いたと思われます。ただ、付け焼き刃関係だとは思いますが、Voiceがフルじゃ
ない……というか、要所要所でカットされているのは仕様と言うにはあまりにも酷すぎですね。……このあたりは悪い方向に
動いてしまったかなあ、と。
さて、書いているうちにどう評価して良いか解らなくなってきた本作ですが……結論です。
絵に関しては正に期待通りの内容を魅せてくれたと思います。
ただ、ほとんどの人が期待していたであろう、絵以外の部分の出来はどうだったかというと、肝心のストーリーが出来以前に
冗長すぎて、ゲームを語る以前に飽きてしまったのが痛かったかな、と。
いつもの……というのは失礼かも知れませんが、本作も求めるものによって評価が別れるタイプの作品と言えるでしょう。
絵やえっちシーンのシチュエーションだけというのなら十分に買う価値はあると思います。ただ、シーンの出現頻度は高いの
ですが、細かな分岐などもあり、お手軽にCGが見られるという訳でもないので、それなりの根気は必要になりますが。
しかし、矢張りそれ相応のシナリオを求めてしまうと、評価はあまり良くありません。シナリオの根底自体は魅力的でも、
いかんせん無駄に長いのは致命的ですね。終盤部分の展開を見る限り、盛り上がりに欠ける話でもない筈ですし……。
まあ、なんだかんだでフルコンプしたというのが、我ながら妙な話と言えばそうかもしれません。
そういう面では、このゲームを中途半端に終わらせたくないという心理が強かったんでしょうね……。
さて、今回はこの辺で筆を置かせて貰います。
縁があれば、次のレビューでお会いしましょう(^^)/〜
OS=日本語版Windows95/98/2000/日本語版が動作する環境
CPU=Pentium166MHz(推奨PentiumII)以上
メモリ=32MB(推奨64MB)以上
HDD=空き容量200MB以上
解像度=800×600:ハイカラ−(推奨フルカラー)表示が可能であること
CD−ROM=8倍速(推奨12倍速)以上
音源=PCM
DirectX=未使用
「原画:CARNELIAN」
「シナリオ:宙形安久里」
「音楽:KIM'S sound ROOM」
「音声:有り(一部) アニメ:無し 」
「価格:8800円」
「初回特典: 豪華マニュアル」
「年齢制限:18禁」