★★★『未来にキスを〜kiss the future〜』★★★
はじめに注意事項です。このレビュー中には表現の都合上、どうしてもゲーム内容のネタバレなどが含まれている
可能性があります。ゲームをプレイ中、及び未プレイの方は、ゲームを最低一度は攻略(エンディングまで到達) した
後で、このレビューを読むことをお薦めします(勿論、未プレイの方でも大丈夫なよう、ネタバレ的要素は極力排除
しているつもりですが、排除が万全とは言えません)。……以上の件、何卒ご理解ご了承下さい。
●− Review 序章 −●
あの元長さんがシナリオを担当する調教ゲーム、か。勿論一筋縄でいく……わけないよなあ(苦笑)。
秋も深まってきた9月下旬。私は家電販売店のエロゲ売場でそんなことを考えながら、事の元凶でもあり、前々から予定していたソフト
「未来にキスを」を手に取りつつ、さも当たり前の如くレジへと向かいました。
さて、本作購入の決め手は昨年の夏に遊んだ「Sense off」がきっかけでした。元々はイラストに惹かれて購入した作品でしたが、ゲーム
を進めていくうちに独特な演出手法と哲学的な見解を多用した展開を目の当たりにし、私個人、本来の目的であったエロゲという枠を超え、
有無を言わせぬ力であっという間に物語の世界へと魅了されてしまったのです。
そう、その私を魅了した独創的なシナリオを書いたライターさんこそ、今回「未来にキスを」のメインライターでもある元長さんでした。
勿論、その元長さんが放つ新作とあっては、期待しない方が間違いというもの。
当然のように本作を購入し、ゲームを開始したわけですが……閑話休題。
やあ、予想通りの哲学エロゲだなあ(苦笑)。
と言うか、相変わらずエロゲでありエロゲじゃ無いですね、これ。
いや、勿論エロゲとして最低限の性行為はありますし、えちぃシチュエーションもそれなりに用意されているのですが、ゲームを進めば
進めるほど、本来あり得ない哲学的な雰囲気が漂いはじめ、ゲームが終わったころにはエロ部分がどうでも良くなるんですよ(苦笑)。
本作のキャッチフレーズでもあった「お兄ちゃん、ボクのこと奴隷にして」という言葉を額面通りに受け取った人の中には、後半の展開に
憤慨する人も居るかも知れませんが、反対に多少なりとも元長さんのシナリオ……というか作風を知っている人であれば、方向性が変わ
っていけばいくほど逆に喜べるという、極端なまでのシナリオ依存……というか、人を選ぶ作風になっています。
勿論私自身はこの不可解かつ思わず唸ってしまう哲学的なシナリオを楽しむために本作を購入していることは言うまでもありませんが。
さて、それでは個別の見解に行きますが……このレビュー内ではシナリオ考察は殆ど行っていませんのであしからず(苦笑)。
私の理解力では部分的な納得はできても、言葉の全てを理解できる領域じゃないんですよ、ことさら恋愛の最終系に関しては。
看板に偽り「有り」の方向に進むのが確定しているゲームと言うのもアレですが……ゲーム性です。
基本的なジャンルは学園を舞台とした恋愛ADV。勿論、裏側では元長さんのノリが爆発している一筋縄ではいかないADVであることも
間違いありません(苦笑)。奇抜なキャッチフレーズやパッケージなどを一見する限り、奴隷調教系のゲームっぽい雰囲気も伺えるものの、
実際は明るい学園系。Hに関しても非合意系などの重い展開は無く、恋人同士のノリで進んでいきます。
ゲーム期間は約2週間。1日1日がしっかりと書かれていることもあり、通常会話が多少諄めな印象も受けますが、会話が丁寧に作って
あるので、日常演出はしっかりしています。若干ですが、場所によってはしっかりと笑いを取っている部分もありますし。
で、肝心のゲーム内容ですが……各ヒロインとの恋愛過程を経て、人と人との恋愛における疑問や不可解な点を解消しようという、なか
なか面白い視点でのゲーム進行&考察なのですが、肝心の論点があまりにも飛び抜けすぎですね。
実際、恋愛に関して普段考えも付かないような疑問をいきなり目の前に置かれても、その発想に驚きつつも反応に困るぞ、と(苦笑)。
勿論それらの疑問や主人公達の出した結論には理由と説得力がありますが、私個人がそれを完全に理解できないのは悔しいです。
こういうとき、自分の学力の低さが恨めしいですよ。
ただ、根底に込められたメッセージを人それぞれに解釈し、暫定的にでも理解できれば、エロゲという枠を越えて楽しめるゲームに
変化しますし、より一層ゲームの世界にのめり込むことが出来るのは間違いありませんが……。
ただ、ひとつ不満というか意外だったのは、肝心の各ヒロインに対して殆ど魅力を感じなかったことですね。頭の足りないキャラを
筆頭に、吹っ飛んだキャラが多かった所為もありますが、全く感情移入が出来なかったのは、プレイしていて計算外でした。
マニュアル初見の時点ではもうすこし馴染みやすい印象を受けただけに、このあたりは非常に残念でしたね。複雑なシナリオだからこそ
キャラに愛着が沸けば、奥深いところまで楽しめたと思われるのですが。
さて、難しい考察はもっと頭の良い人にお任せするとして……ストーリーです。
概容は先程も少し述べたようにバリバリの哲学エロゲですが、実は深く考えなければ純粋な学園モノとして楽しむことも可能です。
1プレイ時間は5時間程度と若干長め。良く言えば物語の密度が高い物語、悪く言えば核心までの課程が長すぎます。日常シーンの書き
込み丁寧な反面、アクセントが薄く冗長感を感じてしまったのはいただけないですね。
ただ、相変わらず要所要所で唸ったり頭を捻るようなセリフを含むことが出来るのは、流石元長さんだなあ、と。
思わずハッとする言葉を突きつけられ、その文章の真意を考え、悩むのはエロゲ本来の楽しみ方とは違えど、面白いです。
エロゲとしての期待を外しつつも、訴えている言葉に納得が出来るから楽しい……こういうゲームって、本当に希有ですよ。
また、エロ部分に関しても、霞シナリオなどは充分実用性があると思われます。ただ、恋愛エロゲとしてのエロではなく、あくまでも最終
シナリオへの伏線もしくは課程として使われている印象があるため、エロゲ的なエロとは微妙に違う気もしますが。
……さて、このゲームが演出している「恋愛の最終系」ですが……難しいですね。
勿論私はこういった一件無駄っぽい哲学が入っているゲームは嫌いじゃないですし、本作に関してはこういう展開を望んでいました。
そういう面では私的に満足のいく結末でした。まあ恋愛を課程でしか使用していないなど、エロゲとしては致命的な部分も多々ありますが。
ただ、主人公達の取った考えや行動は非常に正論でした。確かに、恋愛(ゲームを含む)という課程を掘り下げていくと、最終的には
こういった展開になることもありえますし、その際に取る行動もある種の説得力がありました。そう考えると、これを纏めきったシナリオは
やっぱり上手いなあ、と。
ゲーム前半はヒロインとの甘々生活を楽しみ、後半は一気に哲学世界へと引き込まれる……このギャップをどう捉え、受け止めるかに
よって評価が変わりますが、別に片方の分野だけを堪能するも良し、両方を堪能すれば更に良し、ですね。
さて、実はゲームを始めるまでにひと悶着あった……原画です。
本作の原画は「みさくらなんこつ」さん。一部筋ではもともと知名度の高い絵描きさんらしいのですが、私は初耳でした。
ただ、イラストを見る限りは非常に魅力的な絵を描いている方だったので、特に不安もなく、逆にこちらの方からいろいろと調べたぐらい
でした。幸い同人関係で本を見つけ購入し、原画の漠然的な雰囲気は発売前に掴むことが出来ました。……本の内容は兎も角(苦笑)。
で、その原画ですが……期待はずれ……というか、思わず「みさくらさんってこんな絵だっけ?」と首を傾げる箇所が多かったです。
イラストなどを見る限りは非常に質の良い原画を描かれているにも関わらず、本作の絵にはさほど魅力を感じなかったですね。フルCGに
関してはそれほど違和感が無かったのですが、立ちグラなどは全体的に構図の違和感が気になりました。
あと、私的にどうしても耐えられなかったのがヒロイン達の髪。基本的に全て人外系……というか、絶対にあり得ない
髪型のオンパレード。思わず呆れを通り越して別の意味で納得寸前まで引っ張られていくぐらい、近年稀にみる例えようのない髪型でした。
多少の独自性は必要であり許容範囲でもありますすが、今回に限っては限度を超えすぎていたな、と。
まあ、いろいろと言いましたが、シチュに問題がなければ充分実用性があるCGであることは間違いありません。
彩色に関しても多少濃いめの塗りでしたが、原画には合っていたと思われますし、充分平均以上の評価を出せますね。
さて、快適なゲーム環境には欠かせない……システム関連です。
ソフトハウスがビジュアルアーツ系列ということもあり、システム自体は非常に安定していました。ここのシステムの特性上、どうしても
シンプルなコマンドが多く無機質的な印象を受ける部分もありますが、その代償として安定動作が保証されていることもあり、このあたりは
一長一短ながらも妥協できるレヴェルです。下手なバグがあるよりはこの方が明らかに扱いやすいですし。
と、システムに関しては以上です。元がシンプルなADVということで特に目新しい機能も無く、普通にゲームをするのに必要な機能は
一通り揃っていた&フォローされていたので、特に批評する点はありません、はい。
さて、音楽に関してですが……。
全体的に悪くないものの、取り立てて印象に残った曲はありませんでした。
ゲーム後半で使われているいくつかの曲はシナリオ展開と非常に相まっていたと思われますが、全体を通して特筆する曲は無かった
ですね。正直、音楽に関しては個人的に期待していた部分があったので、この結果は残念でした。
ただ、Vocalに関しては非常に良い曲だったと断言出来ますね。相変わらず歌詞が非常に重要ですし(苦笑)。
Vocal担当は定評があるI'veさんということでしたが、本作に至ってもその手腕が遺憾なく発揮されていたと思われます。
あと、声優さんの演技に関しては及第点。可もなく不可もなくのクオリティでした。
……さて、どう評価しましょうか(苦笑)。
まず、エロゲとしては評価出来ないですね。それなりに実用性もありますが、本作の核心部分にエロという要素は殆ど関係ありませんし、
なにより全体印象でも述べたように、ゲームを終えた頃には既にヒロイン達とのえちぃシーンが記憶から抜けてしまうぐらい、印象が薄い……
というか、恋愛に対する様々な捉え方を反映した独特なシナリオに対して視点が動いてしまい、エロゲをやっている気分にはなれません。
以上の点から、エロゲとしては著しく間違ってるゲームと言えるでしょう。
ただ、私は本作を購入する以前からエロ以外の要素……元長さんの醸し出す哲学的なシナリオをプレイしたいという気持ちから本作を
購入し、それらの見解をメインにゲームを楽しもうと考えていたこともあり、その枠に沿った内容を演出していた本作を非常に楽しむことが
出来ました。普通のエロゲも楽しいですが、たまにはこういったゲームに触れるのも悪いことではありませんし。
さて、結論です。
純粋なエロゲor抜き目的として購入するにはお薦めしません。使えない訳ではありませんが、ゲームの本筋が全く違います。
逆に、ここまでの文章を読んで興味を持った方は本作を購入しても充分楽しめると思われます。恋愛ってなんだろうと小難しく考える
人には本当にお勧めしたくなるゲームですね。
まあ、このゲームの本当のテーマ……元長さんのシナリオがどういうものであるかをわかっている人は既にゲームを買っていると思うので、
お勧めする人が限定されているというのが救いでもありますが。
とは言え、正直なところ、矢張り私の知識&理解力で説明できるほど安易なゲーム&シナリオではありませんでした。
このレビューに関しても、もう少しシナリオ考察を中心に書くことが出来れば良かったのですが……。
さて、今回はこの辺で筆を置かせて貰います。
縁があれば、次のレビューでお会いしましょう(^^)/〜
OS=日本語版Windows95/98/Me/2000が動作する環境
CPU=Pentium166MHz(推奨Pentium200MHz)以上
メモリ=空き32MB(推奨64MB)以上
HDD=空き容量700MB以上
解像度=640×480:ハイカラー(推奨フルカラー)表示が可能であること
CD−ROM=4倍速(推奨8倍速)以上
音源=CD-DA、WAV
DirectX=Ver5以降
「原画:みさくらなんこつ」
「シナリオ:元長柾木、シュート彦、大瀧大輔」
「音楽:BIGMADE、I've」
「音声:有り(女性キャラのみ) アニメ:無し 」
「価格:8800円」
「初回特典:無し」
「年齢制限:18禁」
「メディア:CD」