★★★『Fate/stay night』★★★
はじめに注意事項です。このレビュー内には表現の都合上、ゲーム内容に関してのネタバレなどが含まれている
可能性があります。ゲームをプレイ中、及び未プレイの方は、ゲームを最低一度は攻略(エンディングまで到達) した
後で、このレビューを読むことをお薦めします(勿論、未プレイの方でも大丈夫なよう、ネタバレ的要素は極力排除
しているつもりですが、排除が万全とは言えません)。以上の件、閲覧前に何卒ご理解ご了承下さい。
●− Review 序章 −●
待ちに待った作品が遂に……と言うのが正直なところ、かな。
毎冬恒例の大雪と格闘しつつ職探しに明け暮れていた1月下旬。私はいつものように雑誌片手にエロゲの購入検討を……する
わけでもなく、月末に発売される期待の注目作「Fate/stay
night」の発売日を心待ちにしていたのです。
さて、今更改めて語るまでもありませんが、本作は同人で好評を得たTYPE-MOONブランドによる商業化第一弾の作品です。
その前身となった同人作品であるところの「月姫」はエロゲ業界にちょっとしたセンセーショナルを巻き起こしたことで有名ですが、
私もその例に漏れず月姫と言う作品を純粋に堪能させて貰った立場。シナリオの魅力は言うに及ばず、独特の台詞回しや多用な
伏線の使い方、そして各キャラの行動や魅力がことごとく私的琴線に触れ、当時停滞気味だったエロゲに対するモチベーション
が久しぶりに回復した思い入れのある作品だったりします。まあ、同人作品だったと言うのは心中複雑なものもありましたが……。
ま、それはさておき、そんな思い入れのあるブランドの新作、しかも商業ベースとあれば期待しない訳がありません。
これでようやくレビューが書ける(私のレビューは商業のみ)と思いつつ、意気揚々と本作を購入したのですが……閑話休題。
いや〜、充分に堪能させて貰いました。
物語の完成度は間違いなく一級品でしたし、それを支えるキャラ、演出全てが高い領域でまとまっていた点は流石でした。
本当はゆっくり時間をかけて物語を理解していこうと思っていたのですが、いざゲームを始めてみると、お約束の如く先へ先へと
進めたくなる展開に見舞われてしまい、結局あっという間に最後までクリアしてしまったのは少々勿体なかったな、と。
まあ裏を返せばそれだけ夢中になれたと言うことですし、私自身も久しぶりに充実した時間&物語を堪能できたのも事実。
本作を散々期待していた立場から言わせていただくと、充分期待通りの内容を伴った作品だったと断言して良いでしょう。はい。
……と、ここまでは本当に申し分なかったのですが、もちろん全ての要素を手放しで誉めることは出来ません。
細かな部分は追々語っていきますが、まず何よりも要であり一番のネックだった点は、兎にも角にもひたすら……長いんですよ。
勿論面白い作品を長い時間楽しめると言うことは嬉しいですし、言うまでもなく純粋な読み物として申し分なかったとは言え、
矢張り限度があります。何より面白いが為になかなか途中で止められないことが多々あったのは、贅沢な話ですが一種の苦痛……。
私はたまたま社会人から離脱していたから良かった(とは言い難いけど……)ものの、まともな社会人生活を過ごしている人には
卒倒することこの上ない長さ&面白さなので、ある程度の時間を作って遊んだほうが賢明でしょう。
あと、今更言うまでもありませんが、物語という名の文章をひたすら読むことが好きな人を前提にしているので、お手軽感は限り
なく薄いです。ちなみにキャラの魅力に反してエロゲらしき影も殆どないので、エロゲとしての魅力が殆ど感じられなかった点は非常
に残念であり大問題でした。このあたり、非常に勿体ないと言うか微妙にエロゲらしくなかったと言うか……。
結局のところ、単純な面白さという面では申し分なかったんですけど、ね。
それでは、個々の見解に行ってみましょう。
読み応えがあり過ぎるのも大変だ……ゲーム性です。
本作のゲームジャンルはNOV。これでもかと言うぐらいNOV。聖杯戦争というキーワードの下、その争いに巻き込まれた主人公と
ヒロイン達が織りなす物語でしたが、和洋折衷(少々おかしな比喩表現ですが)な世界観の作り方&魅せ方は上手かったですね。
まあ、その代償として世界観や各種用語に関する説明調なテキストが猛烈に多く、多少なりとも理解した頃には朝になること請け
合いと言う規模でしたが、その過程を含め、世界に引き込まれるような錯覚に見舞われた点は流石でした。特にプレイヤーに対して
様々な疑問を与えつつ伏線を張りそれを少しづつ小出しにして魅せていく独特の作風は見事なものがありました。
また、この世界感を引き立てるキャラに関しては男女問わず実に魅力的でした。キャラの魅せ方に関しては元々定評のある
ライターさんですが、本作でもその実力が遺憾なく発揮されていたと言えるでしょう。いや、毎々思うのですが、何気ない台詞やキャラ
の仕草などがことごとくツボに入るんですよ、ホント(苦笑)。
で、ゲーム詳細はその聖杯を巡るゴタゴタですが、額面通り進みそうでやっぱり進まなかったので、特に深く考えずゲームを
進めても問題ないと思われます。ただ、本作において重要な位置を占めるサーヴァントと言うキャラの存在に関しては神話や伝記の
類に関する知識を持っている人であれば思わずニヤリとする箇所が多々ある作りになっていたことも追記しておきましょう。
ただ、今更言うまでもありませんが……長いです。ひたすら長いです。テキスト運びの上手さもあり冗長感こそなかったものの、
この長さは正直楽しくもあり苦痛でもあり、でした。NOVゲーとしては間違っていませんが、ある意味遊び手を選ぶ作品でしたね。
あと、一世代前に流行だった選択肢ミス=即BADが多いのはキツかったです。引っかけ選択も豊富なので余程熟練したプレイヤー
で無い限り、二桁に達する勢いでBADエンドを見ることになるのは難易度云々以前の問題でした。DOSティストか……。
もっとも、相応のフォローもあるのでBAD自体は苦にならない……場合によっては率先して飛び込みたくなる場合もありましたが。
まあ、大概即死なのでやり直す際もそれほど手間はかかりませんでしたが、基本的に何かありそうな選択肢の際は必ずセーブを
してから選択肢を選ぶのが前提条件な仕様でしたね。正直なところ、今の時代には少々厳しい仕様だったかな、と思われます……。
聖杯戦争、その結末とは……ストーリーです。
幼い頃火災によって両親を失い孤児になってしまった主人公−衛宮士郎はあるとき、自らを魔術師と名乗る人物に引き取られる。
その養父の反対を押し切り魔術を習い始める士郎だったが、元々の才能を持たない彼が身につけた魔術は結局ひとつだけだった。
そして現在。養父も今は亡く、魔術師としても半人前のまま成長した士郎は偶然にも「マスター」と呼ばれる魔術師たちの戦いに
巻き込まれてしまう。望まぬままに七人のサーヴァントの一人「セイバー」のマスターとなった主人公は、聖杯を巡る争いに身を投じる
ことになるのだが……と言う設定で物語は幕を開けます。
大まかな概要は先程述べたように聖杯戦争に関する顛末を描いた物語。1プレイ時間は15〜20H×3で約60時間とかなり長め。
シナリオは三つのルートからなり、ある程度順番……攻略ルートが決まっています。これは物語を進めていく上での必然事項で
したが、自分の意志で攻略したいキャラを最初に選べないと言うのは少々歯がゆいものがありました。
さて、まずシナリオの率直な感想としては……素晴らしかったです。
勿論これだけで終わる訳にはいきませんが、たまには素直に誉めてから重箱の隅をつついてもバチは当たらないでしょう(苦笑)。
独特かつ癖のある文章を書くライターさんなので読み手を選ぶこと請け合いですが、私にとっては最上級の文章でした。
シナリオの見解に関してはあまり多くを書きませんが、深く考えずに読むのが一番正しいと感じた反面、ある程度伏線と設定を
理解しないと魅力が半減するであろう作りだったのも事実。ただ、伏線を考えすぎて本線に集中できないと言う本末転倒な事態にな
ることも考えられるので、構えずに遊ぶのが一番でしたね。勿論考える過程を含めて楽しかったことは言うまでもありませんが。
あと、ひとつ予想外だったのは要所で相応に重い展開もあった反面、バトルロイヤルと言う一種殺伐とした設定のわりに思った
ほど全体の雰囲気が重くなかった点ですね。コメディ的な要素も多く、堅苦しさをあまり感じなかった点は個人的に好印象でした。
ただ、最初に遊んだセイバーシナリオが物語として一番完成されていたが故に、それ以降のルートは面白いと思いつつも何処か
作業的に遊んでしまったことも事実。もっとも自分はご都合主義派なので、セイバーエンドが好きかと問われると首を傾げるところで
すが(苦笑)。……まあ、その点で好感が持てたのは凛ルートでしたが、物語としては矢張りセイバーシナリオが一番でしたね。
ちなみに桜シナリオは……単品評価は高いものの、キャラの扱いとしては非常に勿体無かったなあ、と。
何より、核心に近づけば近づくほど私のテンションが下がっていったのは複雑でした。他のルートに絡んでいなかった所為もあると
思いますが、ヒロインの行動がことごとく悪い意味で期待を裏切っていたような気がしてなりませんでした、ね。
まあ、それでも全体的に高い評価を出せることに変わりはありません。
至るまでの過程はどうであれ、聖杯戦争を舞台にした物語を堪能できたことは間違いないでしょう。
さて、ゲームの華、CGです。
そうですね……原画に関してはお世辞にも上手いとは言えません。絵柄も癖がありますし、単純な画力は及第点の域でした。
もっとも、それ以外……構図の違和感等は特に無かった&彩色は申し分なしだったので、充分に鑑賞出来るCGではありましたが。
ただ言わずもがな、それを補って余る魅力……キャラの多彩な表情や仕草による付加効果があったことは紛れもない事実。
兎に角、多種多様な立ち絵はそれだけで素晴らしかったですし、特定のシーンでしか用いられない、いわゆるレア立ち絵なども、
ふんだんに使用されていました。その点における原画の使い方と魅せ方は本当に見事でしたね。
へたうま……というのは失礼かも知れませんが、画力以上に魅力的な絵を魅せてくれるのが武内さんの特徴であり、キャラの
魅力をより一層引き立てると言う点に置いてはこれ以上ないぐらいのプラス要素になっていたことも間違いありません。事実、表面や
見た目だけを取り繕ったような無機質的なCGからは伝わってこない独特の味わいが生まれていたと思われます。
また、一寸くだけたCGやコメディ調のCGに関しても堪能させて頂きました。個人的に笑い系を好むこともあり、真面目な絵より
も好感が持てましたね。後、同じように格好良いCGはとことん格好良い点は見事。事実、戦闘シーンや背景その他はかなり良質
なクオリティを誇っていました。……あ、そうそう、本作は野郎キャラが多めかつ非常に格好良かった点も追記しておきましょう。
ただ……えちぃ関連における絶対的なCGの少なさはもう少し頑張って欲しかったな、と。曲がりなりにもエロゲですし、多少
なりともエロを期待していた立場としては全然もの足りませんでした。折角魅力的なキャラが多いのですから、もっと充実したえちぃな
シーンを見たかったと言うのは紛れもない本音ですし……ん〜、残念。
快適か否か……システムです。
ゲームジャンルがNOVと言うことでシステム自体にさほど複雑な部分はありませんでしたが、単純なシステムとして評価した
場合、基礎から応用に至るまで、非常に快適な内容でした。事実、私としてはほぼ文句の付けようがない完成度と言って差し支え
ありません。何より本作にとって一番重要な「長い文章をストレス無く快適に読ませる」と言う点は申し分のない仕様でした。
そうですね……おおよそ必要であろう機能はほぼ全て実装されていましたし、カスタマイズも良好。特に選択肢、シーン単位の
スキップ機能は非常に重宝させて頂きました。良くも悪くもBADENDの多いゲームなので、選択肢をミスしても直ぐ復帰出来るよう
になっていた点は非常に有り難かったです。いや、私、初っぱなに好感度不足のBADに飛ばされたもので(苦笑)。
あ、強いて言えばシーン回想機能が実装されていなかった点は少々マイナス。なけなしのえちぃシーンさえ鑑賞できなかったのは
寂しかったですね。いや、まあ結局それだけえちぃに関するウェイトが少ないと言うことだと思われますが……。
あと、ゲーム本線に関してはエフェクト(画面効果、演出)周りに多少のマシンパワーを要求される点は少々注意が必要ですね。
勿論その要求に見合うだけの画面効果を見ることが出来たのは事実ですし、無駄にスペックだけを上げて中身が全く伴わない
作品が多い中、結果を伴っていたと言う点で非常に高く評価したいのですが、どうであれ相応のスペックを要求されることは事実。
とどのつまり、マシンパワーがそのまま演出関係に反映されるので、スペックの足りないマシンでは正直ゲームの魅力が半減する
ほど損をすることになると思われます。購入の際は自分のPCスペックと動作推奨環境を照らし併せて検討したほうが賢明でしょう。
縁の下の力持ち……音楽です。
そうですね……他の部分が印象に残りすぎた所為もありますが、音楽に関しては可もなく不可もなく、でした。
勿論場面との融合、演出の引き立てに関しては何ら問題なく機能していたものの、いかんせん本線のクオリティが高いため、
音楽がシナリオに負けていると感じた部分も多々ありました。脇役に徹するつもりが完全に忘れられていたような……。
ただ、格好良い曲はとことん私好みの曲でしたし、後々単体で聴いてみると曲自体はどの曲も悪くなかったので、決して評価が
低いという訳ではありませんが……残念ながら不思議と印象に残らなかったと言うかそれだけ本線に集中していたと言うか。
あ、そうそう。本作は音声無しの仕様になっていましたが、これはテキスト量と物語の長さを考えると妥当と言えるでしょう。
勿論C.V.があるに越したことは無いものの、どちらかと言えばこのライターさんの文章はC.V.を当てづらい文体だと思われるので、
結果的には音声無しで良かったと思われますね。事実、私個人は全く気にならなかったです。
後は……vocalに関してですが、私的には少々物足りなかったかな、と。
これは完全に好みの問題なものの、どうも高音域の曲は耳に合わないと言うか何というか……ま、ささやかな余談と言うことで。
まあ、結局のところ言うまでもなく……。
面白かったです(苦笑)。散々書いてこの一言もどうかと思いますが、充分すぎるほど堪能させていただきました。
何より最初から最後まで純粋に物語を楽しめた作品は本当に久しぶりでしたし、発表当初から過度と言えるほどの期待をしていた
その期待を裏切ることなく、それ以上に素晴らしい作品を遊ぶことが出来たという点だけでも本作を購入した甲斐がありました。
勿論、相応に気に入らなかったり引っかかる点も多々ありましたが、ひとつの「物語」として評価する際には全然気にならない範疇
でしたし、何より私自身がそう思いつつ単純に面白かったと感じたので、あまり細かなことを気にする必要は無いでしょう。
ん〜、あえて言うならばもう少しエロがあってもなあ……可能ならば、何らかの形で補完していただきたいです、いや、本当に。
さて、結論です。
ゲーム内容と完成度は一級品であり、それだけでも購入の価値ありと言って差し支えないと思われます。また物語を読むことが
好きな人や伏線の効いた展開が好きな人にもお勧め出来る作品ですね。登場キャラもそれぞれに魅力的なので笑いからシリアス
まで万遍なく楽しめる作品に仕上がっていたと思われます。腰を据えて文章を読みたいと言う人には堪らない作品でしょう。
逆に長い物語を読むことが嫌いな人や回りくどい文章が嫌いな人にはお薦め出来ません。何より強烈に長い&癖のあるテキスト
なので、間違ってもお手軽とは言えず……本気で全シナリオを遊ぶと約60時間要しますし……。
あと、これは敢えて語るまでもないと思われますが、曲がりなりにもバトロワ調なので、私的予想より軽かったとは言え矢張り若干
話が重いので、極端な爽やかさや明るい展開を求める人には向かないと思われます。間違っても恋愛ゲーではありませんし(苦笑)。
いやいや、何とか無事に書き上げることが出来ました……。
エロゲ業界にセンセーショナルを巻き起こした「月姫」から早数年。新作を期待しつつようやく遊ぶ機会に恵まれましたが、その
期待に見事応えてくれた……私としてはそれだけで充分嬉しかったですし、楽しかったですね。
さて、今回はこの辺で筆を置かせて貰います。
縁があれば、次のレビューでお会いしましょう(^^)/〜
OS=日本語版Windows98/Me/2000/XPが動作する環境
CPU=PentiumIII-400MHz(推奨PentiumIII-800MHz)以上
メモリ=128〜256MB(推奨512MB)以上
HDD=空き容量1.7GB以上
解像度=800×600:ハイカラー(推奨フルカラー)表示が可能であること/外部AGPボード推奨
CD-ROM=2倍速(推奨4倍速)以上
音源=PCM
DirectX=Ver7以降
「原画:武内崇」
「シナリオ:奈須きのこ」
「音楽:KATE、James Harris、NUMBER 2001」
「音声:無し アニメ:無し(OPムービー有り) 」
「発売日:2004年01月30日」
「価格:8800円」
「初回特典:設定資料集」
「年齢制限:18禁」
「メディア:CD」
注:2003/01より点数形式を変更しました(50→100点満点)