★★★『秋桜の空に』★★★
はじめに注意事項です。このレビュー中には表現の都合上、どうしてもゲーム内容のネタバレなどが含まれている
可能性があります。ゲームをプレイ中、及び未プレイの方は、ゲームを最低一度は攻略(エンディングまで到達) した
後で、このレビューを読むことをお薦めします(勿論、未プレイの方でも大丈夫なよう、ネタバレ的要素は極力排除
しているつもりですが……)。……以上の件、何卒ご理解ご了承下さいませ。
●− Review 序章 −●
「なあ、Nagale? 念のためフォローするけど「あきざくら」じゃなくて「コスモス」だぞ。ボケてるだけなら流すけど……」
「……ん? ……あっ、言われてみればそうじゃん! ゴメン、つか、そうだよな……。あ〜、かなり頭が回ってないし、俺」
良くも悪くも転職騒動の鬱状態から徐々に解放されつつあった11月の中旬。
自分のボケと無知ぶりを再認識しつつ、私は友達と電話で語りながら「秋桜の空に」についての情報交換をしていました。
さて、今回レビューで取り上げた「秋桜の空に」ですが、私が本作の存在を最初に知ったのはゲームが発売されてから数日後。
例の如く、当初は取り立てて興味を示すことも無かったのですが、購入した人の評価が妙な方向へと盛り上がりを見せたことや、
その評価が地味に継続されたこともあり、個人的に興味を抱くようになっていったのです。というのも、このケースで購入したソフトは
非常に良質な作品が多いのが私の経験。もっとも、この時点では雑誌記事すら読んでないと言う無茶苦茶ぶりでしたが……。
で、それから数ヶ月後。冒頭の会話を経て情報収集がおおよそ終わり、購入の機会を伺っていた私がショップに足を運んだ際、
なんの因果か何気なく再販された本作がひっそりと置いてあったのです。しかもご丁寧に残りあと2本という嫌がらせぶり(苦笑)。
勿論、そこからの行動は至極妥当なものでした。
たまたまあったスロットの戦利金を使い「なんとなく」購入し、半月の積み期間を経てゲームを始めたのですが……閑話休題。
成る程、ね。……これは確かに騒がれただけの価値があるなあ。
いや、こう言っては失礼ですが、本当に意外なほどに意外でした。
先行ユーザーの評判からもある程度の良作を期待してはいたのですが、まさかここまで魅せてくれるとは完全な計算外。
なにより本作のメインが私好みのコメディ系なシナリオだったことに加え、無駄な個性を爆発させつつも魅力的なキャラ。そして
要所でのシリアスな展開とEpで演出される泣きと感動。これだけでも私にとっては当たりゲーでしたが、なによりも良かったのは
その全てが非常に高いレヴェルで完成されていたことでした。確かに前評判は伊達ではなかったですね。
勿論不可解なシナリオの運び方やシリアス部分の甘さなど、突っ込みたい点は山のようにありましたが、それを補って余りあり
すぎるシナリオの出来には久しぶりに唸らされました。自分自身、ここまで執着、集中出来るとは思ってもいなかったので……。
ただ、良くも悪くも明らかにKey系のノリを意識している印象を見て取れたのが本作の全てとも言えます。
最初からユーザーを引っ張っていく方向が見える……展開がある程度解ってしまうのは困りものでしたね。実際、本作に似た
ゲームを過去にプレイしていたからこそ、強引とも取れるシナリオやEpの唐突さに違和感を感じなかったのも事実なので……。
それでは、個々の見解に行ってみましょう。
さて、まずはゲーム性云々です。
ジャンルは至って普通のエロゲ的学園恋愛系ADVで1プレイ時間は5時間程度と、ごく普通〜若干長めのボリューム。ゲーム
期間は約1ヶ月間ですが、実際の行動は20日程度という感じです。1日の描写は丁寧ですね。
で、まず特筆すべき点は矢張りキャラ立ちの良さ、そしてそれをしっかりとシナリオに活かしている点でしょう。キャラが
魅力的だけどシナリオがちょっと……というゲームが多々ある中、本作はその両方が非常に上手く融合していたと思われます。
また、文章のセンスにおいても光るものがありました。基本的にはコメディ路線なのですが、その見せ方と演出は本当に上手
かったですね。コメディ系は良くも悪くも諄さや悪ノリをメインにした作品が多い中で、嫌味のない良質な笑いをコンスタントに提供して
いたのには驚くと共に、苦笑いのような呆れとは違った、爽やかな笑いが演出されていたと思われます。
その反面、シリアスな演出においては唐突さや粗い印象を受けてしまったのは残念です。全て終わってみれば因果関係も
納得がいくのですが、要所で説明不足が目立ち、プレイヤーが強引に自己完結、もしくは照らし合わせて補完する場面が多いのは
頂けないですね。なまじコメディ部分の出来が秀逸だっただけに、この落差は気になってしまいました。
終わりよければ全て良しとしか取れない端折りすぎな展開はあまりに安易で、特に後半部のシリアスな展開は相当不完全燃焼を
起こしていたと思われるのですが……。
あ、ちなみにエロは薄いです。別の意味では濃いですが、取り立てて期待しない方が無難です。また、主人公が無駄に豹変する
のもお約束ですね(苦笑)。シナリオの流れに沿いつつ普通にやってくれれば十分だったのになあ……。
最後までONEの雰囲気を拭いきれなかったのは複雑な気分……ストーリーです。
過去に起こした事件の所為で、とある呪いを掛けられてしまった主人公。
傍目には変わらぬ日々を過ごしつつ、いつか来る終焉のときを前に、心に傷を持つ少女達とのふれあいをコミカルかつシリアスに
描いた学園生活……と言うのが本作の大筋となっています。
ストーリーは前半コメディ、後半シリアスという、ある意味でお約束な展開。たまにはALLコメディなゲームも見たいところですが、
物語に深みを持たせつつ感動系の演出を魅せるにはこの手法と法則が一番正しくもあります。
まず前半の要、本作のメインとも取れるコメディ部分ですが、兎に角、文章センスが良いですね。大笑い、馬鹿笑いという
感じはそれほどありませんが、コンスタントに良質の笑いを醸し出していたことは事実で、読んでいてとても楽しかったです。
また、テンションが高いにも関わらず、キャラごとの分岐が早いことや個々のシナリオ重複を極力避けた文章が丁寧に書かれて
いたので、繰り返しの際も苦痛になることは殆どありませんでした。何よりも、良い感じでラブコメしていたところは私的に好評価です。
で、問題の後半……、一転して物語の結末でもあるシリアスな方向へと切り替わって行くのですが……残念ながらこの切り替えは
ちょっと唐突気味かつ急ぎすぎの感が強かったかな、と。……確かに2面性を持っているゲームではある意味仕方がないことですが、
最後の最後まで伏線……因果関係の描写が薄いもしくは伏せたままというのはどうかと。シナリオによっては結末までの課程が
さっぱり見えてこないなど不満は多々。とにかく展開が唐突&端折りすぎな印象を持ってしまいました。結局全てが把握できるのは
メインヒロインだけでしたし……お陰で他のキャラ攻略中は首を傾げ、自己完結しつつプレイする羽目になりましたし。
ただ、それらを加味もしくは減点しても、本作のシナリオには私自身、久しぶりに惚れ込みました。
ご都合主義かつ端折りすぎな展開に加え、伏線の未消化と反則の嵐、そして結末が解っているにも関わらず、思わず唸って
しまったのは矢張りそれまでの課程と根底部分のシナリオが秀逸だったからでしょう。実際、最後まで一気に読ませるだけの力が
あったからからこそ、多少の不可解な点にも目を潰ることが出来ましたし。
まあ、納得がいかないけどそれでもいいや、と思ってしまった時点で、ライターさんの勝ちでしょうね(苦笑)。
いやいや、久しぶりに純粋にハマってしまったみたいです。
さて、ゲームの華、CG関連です。
本来この手のゲームは絵が破綻しているのが定説なのですが、本作に至ってはデッサンの狂いこそ若干見受けられたものの、
全体的に見ると十分に魅力的な原画でした。最初こそ表情の変化に乏しい印象を持ちましたが、そんなことは全くなく、随所で
相応かつ魅力的な表情が出ていましたね。ただ、横顔が破綻気味な雰囲気はありましたが。
ただ、CGによってクオリティのばらつきが酷く、特に一部のフルCGに関してはあまりの落差かつ手抜きとも取れる原画、彩色が
あったのは頂けないですね。
絵柄に関しては……彩色もそうですが、全体的にF&C系を意識した万人受け風な印象を受けました。それが悪いとは言いません
が、これでもう少し独自性があれば原画としてはこのままでも通用した出来だと思われたところが残念です。
というか、意識して逆におかしくなった典型的例とも取れるんですよね、本作……。努力しているようには見受けられるのですが。
まあ、それでも十分魅力的に見えたのは事実ですし、後は好みの問題と言うところでしょう。
初期ロットのバグは相当凄惨なものがあったらしい……システムです。
そうですね、良くも悪くも普通でした。もともとデジコミ感覚のADVということで一通りの機能もあり、特筆すべき点はありません。
あえて難を言えばメッセージ履歴の幅が少ない点と、オートセーブ、ロードが無い点は、安定面からも若干疑問がありました。
後、巷で言われていたバグに関してはプレイVerが再販&パッチ修正済みということで特に気にならなかったです。
プレイ中に3度ほど強制終了があったものの、この程度は昨今の事情からは許容範囲と言えるでしょう。とはいえ、勿論バグが
無いに越したことはありませんし、プレイする際にはパッチを当てておくことを強く推奨しますが。
……簡潔ですが、システムに関しては以上です。
ある意味、一番危惧していた部分だったりしますが……音楽です。
ん〜、勿体ないですよ、これ。
音楽にもっと味があれば更に雰囲気を演出できたと思われるのですが、残念ながら音楽自体のレヴェルが低すぎでした。
いや、決して悪い訳ではありません。確かに秀でた音楽ではなく、荒削りな曲が耳に付いたのですが、単純に遊ぶには問題なし。
ハイテンションかつテンポの速い曲はちょっと露骨でしたが、シリアス系や穏やかな曲に関しては及第点以上。ゲーム音楽として
しっかりと機能していたと思われます。
ただ、矢張り音楽が強すぎ……と言うか軽すぎ……でしたね。曲によってはメインパートがチャラチャラと際立ちすぎていて、嫌な音
だけが耳についてしまったのは頂けなかったです。場面よりも音楽の方が際立ち過ぎている部分が多々あり、シナリオから注意が
逸れてしまうことがあったのはどうかな、と。このあたり、音楽自体が場面と微妙に合っているだけに残念でした。
また、一部の曲は曲自体の短さが気になりました。読み手のスピードはまちまちですが、重要なシーンなど必然的に演出が長く
なるわけですし、最低限そこで流れる曲だけはそれに見合った曲の長さが欲しかったです。リロードの空白はCD最大の欠点ですし。
……重ね重ね勿体ないですね。この分野で演出の一押しがあれば更に深みが出ていたと思われるのですが……。
追記として、本作はVoice無しですが、文章の勢いを殺さないという面で、本作はVoice無しで良かったと思われます。
まあ、あったらあったで是非とも聴いてみたかったのもこれ人情なのですが……(苦笑)。
いやいや、久しぶりに良い物を見せて貰ったかな、と。
様々なレビューを書く関係上、普段はゲームを極端に誉めたり、ひとつのゲームに対してなるべく余計な執着を持たないように
しているのですが、本作はそのモットーを無視するかの如く、私にいろいろと衝撃を与えてくれました。スタンスが違うので意図的に
書きませんでしたが、若菜嬢ことカナ坊のシナリオは今年プレイしたゲームの中でもトップクラスの演出だったと思っています。
なにより、ゲームに対してエンタティメント的要素を求める傾向がある私にとって、本作は申し分のないゲームだと言えますね。
欲を言えば最初から最後まで、あの勢いを保ちつつ進めて欲しかったところですけど……。
さて、結論です。
Key系のゲームに代表される、笑い、感動、泣き、萌えなどの要素を含んだ質の高いゲームをやりたい人や、コメディ系の
ゲームが好きな人、そして何処か吹っ飛んでいるヒロインに対して違和感がない人には間違いなくオススメ出来るゲームです。
反面、突拍子もない展開が嫌いな人や、ご都合主義なシナリオに嫌悪感がある人には全くオススメ出来ません、ね。
ただ、久しぶりに有無を言わせぬ説得力があったことは間違いありません。特定ヒロイン以外は伏線が見えてこない上に、
展開によっては主人公がなぜ規律に触れたのかという説明が全くされていないにも関わらず、些細なマイナス要因を払拭する
シナリオの魅力と勢いが本作にはありました。逆に言えばシナリオで全てフォローしているのでしょうけど……(苦笑)。
まあなにより、半端なエロゲーには免疫が出来ている私がそう思った時点で、個人的には最大級の賛辞と言えるでしょう。
さて、それでは今回はこの辺で筆を置かせて貰います。
縁があれば、次のレビューでお会いしましょう(^^)/〜
OS=日本語版Windows95/98/Me動作する環境
CPU=MMXPentium166MHz以上
メモリ=32MB以上
HDD=空き容量300MB以上
解像度=800×600:フルカラ−表示が可能であること
CD−ROM=実装必須
音源=CD-DA
DirectX=未使用
「原画:岩舘こう」
「シナリオ:竹井10日」
「音楽:LOOM、しもちゃん」
「音声:無し アニメ:無し 」
「価格:8800円」
「初回特典:無し」
「年齢制限:18禁」
「メディア:CD」