★★★『あやかしびと』★★★
はじめに注意事項です。このレビュー内には表現の都合上、ゲーム内容に関してのネタバレなどが含まれている
可能性があります。ゲームをプレイ中、及び未プレイの方は、ゲームを最低一度は攻略(エンディングまで到達) した
後で、このレビューを読むことをお薦めします(勿論、未プレイの方でも大丈夫なよう、ネタバレ的要素は極力排除
しているつもりですが、排除が万全とは言えません)。以上の件、閲覧前に何卒ご理解ご了承下さい。
●− Review 序章 −●
発売前に散々サイトで宣伝した手前、その当人が買わない訳にはいかないよ、な……。
我が街であるところの札幌が、数十年ぶりに首都東京よりも早く真夏日を迎えた6月下旬。
私は本作「あやかしびと」の宣伝バナーをサイトに掲げつつ、本作の動向を一歩引いた視点からまったり眺めていました。
さて、その「あやかしびと」ですが、ぶっちゃけてしまえば毎々お世話になっている某御大が制作に関わっていた故に、
メーカーに対して中立と不干渉をモットーにしている私(のサイト)としては珍しく、ゲームの宣伝に協力していた作品でした。
勿論、言うまでもなくそれはそれ、これはこれ。レビューは公正に書きますよ、と常々公言していたまでは良かったものの、
微妙に購入のタイミングを失い発売日購入をスルー。当たり前ですが買わなければレビューも出来ません(苦笑)。ならばサイ
ト絡みでのレビューが上がらないかな、と不条理な他力本願をしてみたものの、残念なことに誰からも音沙汰は無し。
そんなこんなで購入をダラダラと引き延ばし、遂にこのまま有耶無耶……となる寸前、一念発起してズバッと購入。
ま、ぶっちゃけ面白い作品であることは間違いないんだけどな、と思いつつゲームを開始したのですが……閑話休題。
んー、久しぶりに力作、大作と言って良いゲームを遊ぶことができました。
物語としての完成度が非常に高かったことに加え、それを引き立てる魅力的なキャラと演出も高い領域でまとまっていた
見事な作品だったと思われます。今回はマイペース気味に遊んだとは言え、いざ盛り上がってくると先へ先へと進めたくなる
展開が多かったのはそれだけ夢中になれたと言う証明ですし、事実、私自身も充実したシナリオ&時間を堪能出来ました。
正直、普段自分が好んでいるコメディorまったり系とは畑違いのジャンル(元々、殺伐系は嫌い)だったので、手を付ける
までは若干の戸惑いもあったのですが、いざゲームを始めてみると案の定、食わず嫌いと言うかさほど気にならなかったと
言うか……。勿論、事前に体験版を遊び、ある程度の方向性を確認していたので、シナリオ自体への懸念はほぼ無かった
のですが、僅かに残っていた不安を一掃して更にお釣りが来る内容だったのは、本当に良い意味で裏切られたな、と。
……結果的に期待通り、もしくはそれ以上の内容を伴った作品だったと言って差し支えないでしょう。
ただ、エロゲとしては正直かなり物足りなかったと言う点や、ヒロインそっちのけで男キャラ大活躍な絵図が物語の大半
を占めていた点は明らかにエロゲと言うプラットフォームに沿っていなかったですね。結果的にはそれを含め、本作の個性
と魅力になっていましたが、個人的にはもっとヒロインを重視させた展開があればなお楽しめたと思われるのですが……。
それでは、個々の見解に行ってみましょう。
伝奇系の作品は久しぶりに遊んだかも……ゲーム性です。
ゲームジャンルは概ねADV。正式には学園青春恋愛伝奇バトルADVと銘打たれています。1プレイ時間はおおよそ
12時間程度で、難易度はさほど高くありません。選択肢の数も少ないので、直ぐに修正が出来る範囲だと思われます。
但し、特定ルートへ分岐するには一定の条件を満たす必要がありますが……。
……人妖と呼ばれる特殊能力者と妖(あやかし)と言うキーワードの下、主人公達が人として生きるため、様々な困難に
立ち向かっていく物語は、伝奇物としてのクオリティもさることながら、独自の世界観がしっかりと確立され、実に違和感なく
描写されていました。特に本作の要とも言える「人妖」の起源に関しての描写はなかなかに説得力がありました。
で、ゲームそのものは学園生活を舞台にしつつ、殺伐としたバトルがメインになっていましたが、元々本作はアクションや
バトルの描写に力を入れていただけあり、これらの演出に関しては非常に豪快&舞台の臨場感をより一層引き出していたと
思われます。特に戦闘時のエフェクトやカットインは格好良い演出になっていましたし、挿入のタイミングも見事でした。
ただ、バトルにおける演出に関してはその画面効果が少々五月蠅すぎたかも知れません。と言うのも、本来もっと前面に
出すべきであるテキストの魅力や勢いを演出で殺していたような印象もあり、結果としてテキストを追うと言うよりも画面その
ものを追ってしまい、時折テキストに集中できなかった感が強かったのは勿体なかったな、と。
あと……ある意味これだけ熱い物語だと必然的なのかも知れませんが、矢張りエロゲーとしては微妙でした。
単なるエロゲーを遊ぶよりも、ゲームの中に熱い展開を求めたい人には良作とも言えますが、まがりなりにもエロゲーとして
発売する以上、エロが印象に残るような演出をもう少し強くしてくれれば有り難かったのですが……これは贅沢、かな。
……と言うより、明らかにやっつけ的なエロを入れてお茶を濁そうとしてた感がバリバリだったのは辛かったです、ね。
気合いが入っていて何よりでした……ストーリーです。
太平洋戦争が終結し、10年が経過した頃。人の身でありながら、異形の姿や力を持つものが現れ始めた。
彼らは「人妖病」に罹患した「人妖」と診断され「人間」達によって、地方の一都市に隔離されることになってしまう。
時は流れ現代……人妖であった主人公は、その秘めた危険性ゆえ「人妖都市・神沢」ではなく、孤島の病院への隔離を
余儀なくされていたが、そこで彼は「すず」と出会い、すずと共に病院を脱走し「神沢市」に潜り込んだ。
憧れていた平穏な日常や学生生活に浸る主人公だったが、すずの「秘密」を目的とし、様々な存在が彼女を付け狙う。
ちっぽけな夢と愛する人達を守るため、主人公の戦いが今始まる……と言う設定で物語は幕を開けます。
本作のシナリオ担当は、その筋では有名な東出祐一郎氏。私的には初見のライターさんでしたが、大変丁寧な物語を
綴られる方という印象を受けました。ゲーム部分でも先述しましたが、人妖と言うキーワードを元にした世界観とその消化
が実に丁寧かつ自然に描かれていた点は好印象。勿論、人妖バトルの臨場感と迫力がある描写も素晴らしかったです。
シナリオの流れ自体は日本神話(もしくは書記)や妖怪や白面九尾などが跋扈した世界を掘り下げた、いわゆる伝奇もの
と言うジャンルに属しています。知識が無くても楽しめますが、相応の知識があればなお楽しめる、と言う印象でした。
また、ゲームの本筋ではなかったものの、笑い&コミカルな日常に関しても光るものがありました。
本作は主に日常を描いた学園編と人妖との戦いが主流となる妖編に分けられるのですが、学園編に関しては良質な学園
ゲー感覚で楽しく遊べましたし、多分なコメディ要素も含まれていました。あ、僅かながら荒川氏のノリも入っていましたね。
で、肝心の本線ですが、ぶっちゃけて言えば渋い、そして熱い物語です。
どのシナリオも実に魅力的かつ読み応えがあったのですが、バトルアクション系が好きな人は盛り上がること必至。
そして特筆すべきは本作の売りとも言える戦闘。どちらかと言えば本作は漢キャラ(漢と書いて男と読む)が目立つ
ゲームだったのですが、その原因は間違いなく戦闘を前面に押し出したシナリオの所為でしょう。エロゲーとして間違って
いるとは多々思ったものの、悔しいことに中身はかなり面白かったので、若干複雑な心境ではありましたが……。
もっとも、その所為で漢キャラが良いシーンをほとんど持っていくのは良くも悪くも。それ故にシナリオが盛り上がることは
間違いないのですが、ヒロインの健気な活躍ぶりが華麗にスルーされる(印象に残らない)様はエロゲらしくないなあ、と。
兎に角ヒロインの影が薄すぎなんですよね……エロゲーの存在意義を否定する扱い、と思わず言いたくなりましたし。
それに関連して、キャラの強さにも格差がありすぎ。本来強いはずのキャラが捨て駒のように扱われていた場面多々。
結局どのシナリオも最後は超人同士の対決になるので、普通の作品におけるラスボス級キャラが雑魚以下の処遇なのは
ごく一部のキャラ達には不憫だった、と言うかもう少し良い待遇にしてやって欲しかったですね。
あ、最後の大決戦だけはちょっとやりすぎな印象も。良くも悪くもスケールが大きくなりすぎて「手が止まりました」し。
それを含めて本作の魅力と言えばその通りかも知れませんが、あえて大規模な演出を使う必要は無かったと思われます。
ただ、全ルートに共通して言えたことですが、読了感が非常に良好でオチも爽やか。物語を上手く締めていたな、と。
後味が悪かったり消化不良気味で終わっている作品が多い昨今において、本作の自然な結末は非常に好印象でした。
さて、ゲームの華、CGです。
本作の原画担当は中央東口氏。例に漏れず初見の方でしたが、若干絵柄に癖があったものの原画そのものは魅力的
かつ及第点だったと思われます。ただ、時折あからさまに顔周りが崩れていたのはご愛敬……と言う訳にも行かず(苦笑)。
特に気になったのがトーニャの立ち絵周りですが、思い切り首を傾げてしまう類の原画が混ざっていたのは勿体ないな、と。
……また致命的というほどではありませんでしたが、H原画もキャラの判別が付き辛い絵があったりと、何故か細かな欠点
ばかり目についてしまったのは減点要因。ただ画力云々以上に魅力的、個性的な絵であることは間違いないと思われます。
で、原画に関しても例に漏れず、男キャラの描写(戦闘シーン他)に無駄な力が入っていたのは言うまでもなく。
事実どう見ても男キャラの方が優遇されていたので、その反動でヒロインの扱いが杜撰に感じられたのは少々残念でした。
本来なら充分に魅力的なヒロインなのですが、今回ばかりは相手が悪かったと言うか……エロゲとは思えません(苦笑)。
あ、そうそう。エロは微妙と書きましたが、CG自体は健闘していたと思われます。但し過度な期待は厳禁。
そうですね……他の特筆すべき点としては要所で使われていたデフォルメ系のウィンドウ&カットインCGでしょう。
重い作品の中における清涼剤的な空気が上手く出ていた点は元より、キャラの魅力を一層引き出していたと思われます。
あと、補足になりますがエフェクト、戦闘における画面効果などは非常に秀逸だったと思われます、はい。
修正パッチの効果が今一だったような……システムです。
ゲームジャンルがADVと言うことでシステム自体にさほど複雑な箇所はありませんでしたが、単純にゲームを遊ぶと
仮定して評価した場合、基礎から詳細に至るまで、特に大きな問題の無いシステムだったと思われます。良い意味で及第点。
また、戦闘エフェクト等に関しても見た目が派手な反面、極端な高スペックを要求されなかった点は有り難かったですね。
ただ、季節柄気になった……と言うかこのメーカーさんの欠点とも言えるのがCPU使用率。常に100%を使い切るのでファン
が五月蠅いことこの上なく。発熱の凄いCPUには少々酷な仕様でした。一応パッチを当てることで若干改善されていましたが、
それでも結構五月蠅い……と言うかシステム画面、メイン画面の読み込み時が特に酷かったですね。
夏の暑い時期にCPU(ファン)が唸る様は正直体感的にもマシン的にも一寸辛いものがあるので、可能ならば次回作以降
で改善を期待したいところですね。……それ以外は特にストレスのない安定したシステムだったと思われます。
安定を取るか個性を取るか……音楽です。
本作の音楽担当はファクトリーノイズ&AGさん。元の名をノーブランドサウンズとも言うので、知っている方には名の知れ
たサウンドチームでもあります。そもそも、本作における購入動機の半分はこの近辺の繋がりだったりする訳で……(苦笑)。
毎々幅の広い作風とゲームのイメージに沿った音楽を提供していることで定評のあるブランドですが、本作でもその手腕が
遺憾なく発揮されていたと思われます。ただ、今回は悪い意味で単なるゲームの引き立て役に回っていた印象が強かったの
で、曲単体の印象が薄く、概ね良質な音楽という程度。ブランド特有の個性が殆ど感じられなかったのは残念でした。
勿論音楽そのものは場面調和&質も高く、BGMとしての効果は申し分なかったものの、先に述べたように音楽単体の印象
や独自色が薄く、良く出来た音楽と言う以上の評価に繋がらなかったのも事実。……この辺りは少々贅沢な注文かも知れま
せんが、期待するだけの実力を持ったチームであることも事実なので、確固たるイメージと地位を確立して欲しいですね。
あと、本作で特筆したいのが完全フルボイス仕様だった点。男女サブキャラ問わずの仕様でしたが、主人公の声を含め、
声優さんはキャライメージに沿っていましたし、演技力も安定していたと思われます。ちなみに、この点に関しても男キャラ
がいろいろ優遇されていましたが、どうにも本作は男キャラ活躍ゲーなので、もう突っ込むのは止めておきましょう(苦笑)。
そうですね、素直に良作と言える作品かと。
当初は殺伐系と言うことで若干敬遠していましたが、いざ遊んでみると特に抵抗なく物語を堪能できましたし、期待通り、
もしくはそれ以上の作品に仕上がっていた点だけでも、本作を購入した価値があったと言って良いでしょう。やれ敵が弱い
だの、ラストで思わず某漫画を思い出したとか、細かなツッコミもありましたが、ひとつの作品としては十二分に面白かった
ですね。何だかんだで久々に遊び甲斐のある作品だったと思われます。エロ及びヒロインの扱いは少々残念でしたが。
また、当たり前かつ基本的なことかも知れませんが、登場キャラが敵味方問わず魅力的に描かれていたのは見事でした。
ヒロインに関しても男連中に比べると影が薄かったとは言え充分魅力的でしたし。……要は男連中が頑張りすぎ(苦笑)。
さて、結論です。
ゲームそのものの内容、完成度は非常に高い作品なので、ジャンルを毛嫌いする人以外は購入する価値がある作品
だと思われます。また、バトルアクション系の読み物が好きな人や、漢キャラの活躍と熱い物語を堪能したい人には手放しで
お薦めできる作品ですね。悔しいですが男キャラは優遇されすぎ&格好良い(ところを持っていく)キャラが多すぎでした。
逆にお薦めしない理由は特に無いのですが、伝奇や殺伐とした展開が苦手な人や超人対決が嫌いな人、ボスキャラが
瞬殺される展開を嫌う人には向かない作品でしょう。また言う迄もなくエロゲとしては少々物足りないですね。そもそも妖怪
大決戦の割に、概ね人(人妖)同士がドタバタやり合うので、グロや触手キャラなどは全然登場しませんでしたし(苦笑)。
ぶっちゃけ、個人的な評価は地味に高いです。
起承転結、物語の完成度、魅せ方全てが高い領域でまとまっていましたし、何より作品そのものに魅力を感じました。
個人的には学園編という名の日常が予想以上に面白かったので、学園編だけでも充分満足出来たのですが、後半の殺伐
展開もそれ以上に堪能させて頂きましたね。……最後に、バナー宣伝その他の謝辞をこの場を使い改めて記させて頂きます。
さて、今回はこの辺で筆を置かせて貰います。長文に最後までお付き合い頂き、有り難うございました。
縁があれば、次のレビューでお会いしましょう(^^)/〜
OS=日本語版Windows98/Me/2000/XPが動作する環境
CPU=PentiumIII-500MHz(推奨PentiumIII-800MHz)以上
メモリ=128MB(推奨256MB)以上
HDD=空き容量850MB(推奨1.5GB)以上
解像度=800×600:ハイカラー(推奨フルカラー)表示が可能であること
DVD-ROM=2倍速(推奨4倍速)以上
音源=PCM(wav)
DirectX=Ver8.1以降
「原画:中央東口」
「シナリオ:東出祐一郎」
「音楽:ファクトリーノイズ&AG」
「音声:あり(Full) アニメ:無し」
「発売日:2005年06月24日」
「価格:9240円(税込)」
「初回特典:あり(あやかしぼん)」
「年齢制限:18禁」
「メディア:DVD」
「Ver:1.01(修正パッチ適用済み/最新版は1.02)」
注:2003年1月から点数形式を変更しました(50→100点満点)